つうかあ 第三話 『Practise』
構成上のポイント
・ 回想を重ね、徐々に真実を明らかにしていく
・ ちゆきとみさきの和解、互いへ抱く愛情を描く
・ 引き続き過不足無い解説 (設定とニーラーについて)
・
冒頭の最後にハンカチとみさきをさりげなく見せておくことで、ハンカチを小道具として扱うことを示しておく
伏線&前振り 伏線……後になって意図が判明する布石 / 前振り……段階を踏んで繋がりを滑らかにする為の布石
・ 冒頭の最後にハンカチを見やるみさき
・ なぎさといずみが、遠回しに互いを信用しているということが分かる言葉を口にしている
・ ドライバーとパッセンジャーの信頼関係について語るコーチ
演出など:
<構成:伏線 / 小道具>
ありふれたハンカチを用いての脚本的演出を、後に紐解いていきます。
文字が少なく情報量が控えめな図を用いているのは、一時停止を前提としていないものであり、
やはり人物描写が主眼であることを感じさせます。
<作画的演出:記号 / 構図>
この構図を三回に渡って使用することで、違いを浮き彫りにしています。
一度目は、多くの友人(取り巻き)に囲まれるちゆきを、遠くから眺めるみさき。
二度目は、ちゆきが別の友人に、パッセンジャーになるように頼む際に用いています。
三度目は、一人になっているちゆきに、みさきがハンカチを渡す時。(この際は、二度目までと画角は異なります)





<作画的演出:レンズ効果>
ゆりを信じていないというめぐみの発言で、場の雰囲気がややこしくなったのを、周辺の歪曲を利用して演出しています。
(そうした意図が無い場合は、単に画角上の問題です)
これが口先だけの発言に過ぎないのは、後の回想や他の描写を見ていれば解ります。






<脚本的演出:真実の発露>
少しずつちゆきの抱えているものが明らかとなっていきます。
この時点では、事故が起こってしまい前のパッセンジャーが怪我をしたということが語られています。
かなえ「ウチもたまえのこと信用してへんし」
たまえ「え~、なんでなん? ウチはこんなに愛してんのに~!!」

これは冗談と見せかけてガチ……?ガチだと良いなぁ。というかガチ以外あり得ませんね。
第八話で、洋子がはつねに見せた態度にも似ています。
共感して他のカップルにも痴話喧嘩が広がっていく感じが女の子っぽくて良いですね。
二人が本来の関係を伺わせる表情をしています。





みさきの側は順光で、顔に影があまりありません。
パッセンジャーを信じていなければアクセルを開けられない」

棚橋コーチ「ドライバーが最高で無ければ最高の走りは出来ない。
しかしパッセンジャーが最高でなければドライバーは最高の走りは出来ない」




棚橋コーチ「それがレーシングニーラーだ」
<前振り>
ちゆき・みさきペアだけでなく、いずみ・なぎさペアに対しても意味を持つシーンです。

またもシンクロする二人。
<脚本的演出:真実の発露>
物語はちゆきの核心へと迫っていきます。自身の幸福は仮初めのものだったと気付きます。
ちゆきは周囲の期待に応えることで居場所を確保してきました。


<作画的演出:記号>
視聴者からは両親の顔が視えません。親という存在を単なる記号として演出しています。
例外も多いですが、親は子供が言うことを聞いている限り、愛情を注いでくれます。

<作画的演出:象徴>
成績表は人間の表面しか見ていないことの象徴です。
ちゆきの抱えているものの正体が次々と明らかになります。
事故で相手を傷付けてしまう恐怖、居場所や友人を失う恐怖。(取り巻きは真の友人ではありませんが)












<作画的演出:光>
第二話でも用いられましたが、カメラ位置を逆光側にしているのは、おそらく強い影で不和を演出する為です。
友人と思っていたはずの存在はただの取り巻きにしか過ぎず、都合が悪くなれば手のひらを返します。
みさき「仕事だから」
みさき「……仕事だから」
ここで小道具としてハンカチを選んだのは、それがありふれた物であるというだけでなく、
ちゆきが心で流している悲しみの涙を拭うことを暗示していると解釈し得ます。
ちゆきを慰めてあげたいというみさきの気持ちをおそらく演出しています。
“仕事だから”って何度も言うのは、本当はそうじゃないというのが伝わってきます。声音も含めて。
側車部へ入るように誘われた時も、本当は嬉しかったのだと後に語られます。
<構成:小道具 / 前振り> + <脚本的演出:愛情>





<作画的演出:表情>
これまではキツイ感じかほぼ無表情な感じだったみさきが、柔らかい表情をしていることで、
二人の時間がとても大切なものなのだということが伝わってきます。
ゆりとめぐみが皆に花火をするように誘ったのは
ちゆきとみさきが上手くいっていないのを見て、さりげなく気を遣ったということでしょう。


二人の物語はクライマックスへと向かいます。気なんか遣うなやりたいようにやれ、と言うみさき。
居場所を守る為に周囲の期待に応えてばかり来たちゆきを、自由にしてやれるのはみさきだけです。
<脚本的演出:危機 / 対決>
言うまでもありませんが、ここでの危機や対決は二人の関係であって物理的な意味合いはありません。







時系列的には、冒頭の回想に挿入される形になります。
<脚本的演出:小道具 / 真実の発露> + <作画的演出:象徴 (ハンカチ = 友人)> ※ この同一関係は本作限定です








このハンカチがちゆきにとって大切なものであるというのは、
ちゆきにとって友人というのは大切なものであって欲しいという願いを示していると考えられます。
みさきは、そのハンカチがちゆきの大切な物であることを見抜いており、それをシミ抜きしてまでみさきに届けます。
これによって、たとえ都合が悪くなったとしても、みさきは決して相手を見捨てたりしない人であると示され、







“初めての友達だから、全力で応えたかった”、と言われるちゆき。
このカットで花火を入れたことで、ちゆきの心が暖かく照らされたことを視覚的に演出しています。
<作画的演出: 光 / 象徴>





<脚本的演出:信頼>

<作画的演出:表情>
<作画的演出: 表情 / 光 / レンズ効果>
玉ボケを配することで、二人の間に流れる穏やかで親密な雰囲気を視覚的に演出。
この環境下において、通常では考えられない光量の光を顔に当てることで、
隠し事もわだかまりも無用な気遣いも無い、彼女達にとっての理想的な関係が築かれたことを示しています。















<脚本的演出:真実の発露 + 愛情>
<作画的演出: 構図 / 記号>
以下は、第二話ラストでのカットと同じ構図を用いています。記号的に用いることで違いが浮き彫りとなります。
区切りがついて決着したことを示し、レース仲間を気遣うゆりとめぐみの優しさも同時に描きます。

感想:
青春だなぁ……互いが初めてだというのも最高に良かったですし、
作画的にも演出的にもこれ以上無いほどに素晴らしかったです。
特にラストはひたすら恍惚としてしまい、感想や分析どころじゃなかったです。
円盤を購入して一生大切にしていこうとほぼ決めたのが、この第三話を視た時でした。
個人的にはもはや百合界の巨匠と呼ぶべき脚本・高山カツヒコと、監督・田村正文の二人による渾身の作品はまたも
私の心を強く震わせてくれました。今回は気付いたらちゆきに投影していて、頬をしずくが伝い落ちていました。
作品解説
第一話 『Exhibition』 解説 / 感想
第二話 『Shakedown』 解説 / 感想
第四話 『Swap Meat』 解説 / 感想
第五話 『Reverse Grid』 解説 / 感想
第六話 『Dual Purpose』 解説 / 感想
第七話 『Side by Side』 解説 / 感想
第八話 『Engage』 解説 / 感想
第九話 『Mad Saturday』 解説 / 感想
第十話 『Replay Log Data』 解説 / 感想
第十一話 『Blue Flag』 解説 / 感想
第十二話 『Ladies, Start Your Engines!』 解説 / 感想
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