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夜、灯す 感想/レビュー


◆序文:
(注意点、心得)


ホラー部分は舞台装置としての役割に留めており、
苦手な方に対する配慮があったということが、プロデューサーへのインタビューで語られている。

筆者としても程よい塩梅であり、お化け屋敷に入ったような程々の恐怖感を楽しむことが出来た。
とは言え、思わず凍りついてしまうようなシーンもいくつか見られたが。
バッドエンドに力を入れ過ぎないのは個人的に良かった。(限られた力は本筋に注ぎ込むべきだからである)

ジャンルとしてはホラーではあるが、半分くらいは部活モノで出来ていると言っていい。

作品名は本作をうまく表しており ――形式としてはあるマンガのオマージュらしいが――
これ以外のタイトルはつけようがない。完璧なネーミングセンス。

イラストも魅力的で目に焼き付いて離れない。
切り揃えられた黒髪ロングの完全無欠なお姉さま像が、筆者の中で上書きされていくのを感じた。
そして、この先それが他のものに変わることはもはやないだろう。

テキストにクセは見当たらず、非常に読みやすい。コメディ部分のセンスは個人的に好ましいものだった。
詩的な表現も豊富で使いどころを完全なまでに心得ている。
ADVゲームの作りに合わせて抑えてはいるが、小説の方も読むと筆力の高さがよく分かる。

主人公の性格は基本的に前向きであり、個人的に見ていてストレスは全く感じなかった。
(無論、心に深い傷を抱えたタイプの主人公像を否定しているわけではない)

人物に血が通っており等身大で描かれている。心情が丁寧に語られ、繊細に物語が紡がれている。
舞台設定の土台も強固であり決して揺らぐことがない。

十八幕ある内の、第六幕から人物の核心に深く切り込み、そこから物語は大きく動き出し面白くなってくる。

その一方、事件の真相に至る筋道の一部に少々無理があるのと、
数か所に若干ダイジェスト感が個人的に感じられた。しかしそれらはさして問題ではないように思えた。

これは、必ずしも正確な演奏だけが人の心を動かすというわけではないことに喩えられよう。

ボリュームはおよそ十八時間。脚本に無駄は無く、ルートデザインはシンプルであり、
繰り返しプレイするのに適したものとなっている。
小説とショートストーリーを含めると二十時間を超え、作品世界に浸るのに十分な量が確保されている。
言うまでもないが、その量には確かな質が伴っている。

以下、「脚本」「演技」「演出」「作画」「音楽」「結語」「後記」項にネタバレあり。
また、筆者の勝手な解釈も多分に含んでいるだろう。



◇:攻略


プレイ時間目安:約十八時間

二択の一方がバッドエンドに直行。
最後の三択はバッドエンド、ノーマルエンド、トゥルーエンドに直行。

ボーナスエンドは、トゥルーエンドのエンドロールをスキップしないことで見られる。



簡易表:


先に述べた通り、事件の真相に至る筋道の一部に少々無理があるのと、数か所に若干ダイジェスト感があったものの、
人物描写や舞台設定の作り込みに関しては、個人的に完璧だった。本編の方で十分語られているが、小説も読むとそれがよく解かる。
上述の理由から物語は二段マイナス、構成は一段マイナスだが、∞から引いても結果は変わらないものとする。小説を読まないなら、脚本関連は全てA+。

脚本 (what to tell 何を描くか)

物語
構成


(※一.物語とは、世界の変革、個人の心境変化、それらの変化量。描出すべき事象の過不足の無さ)

(※二.構成とは、物語を描く為の適切な場面の配置、伏線、起伏、溜め、ミスリード、小道具の使用等)


演出 (how to show どう描くか)

脚本的
作画的
音響的 A-
スクリプト A


(※一.脚本的演出とは、見せ場を指す。出会い、別れ、愛情、信頼、危機、対決、和解、真実の劇的発露)

(※二.作画的演出とは、印象的な絵。構図、背景、表情、所作、衣装、色、光、象徴、対比、レンズ効果等)
(※三.音響的演出とは、音楽と効果音の使い方。挿入歌は含むが、演技とシステムボイスは含めない)
(※四.スクリプトとは、画面効果を指す。アイキャッチ、ワイプ、暗転、立ち位置や表情の変化等も含む)



◆脚本:
(シナリオ、構成、テキスト、表現)


人物描写に関する部分は特に個人的な感想になる為、概ね「後記」にて後述する。

シナリオについて。

箏に対する情熱と小夜子の手帳だけを胸にしまい込み、心を閉ざした有華。
有華の手を引き、皆の輪へ加わるよう促す鈴。
そんな有華と衝突し、自分自身を知り、互いに手を取り分かり合っていく少女達。

戦後の混迷、学園の盛衰、田鎖家の教育事業参入と演奏家の夢、皇道流の起源、
そしてなにより引き裂かれた少女達の想い……
こうした運命の糸が複雑に絡み合い、物語が紡がれていく。

構成について。

冒頭の怪談で世界観と舞台設定の導入を行うのは定石通り。

概ね各幕の始まりに灯音と小夜子のエピソードが、鈴の夢として語られる。
事件に至るまでの経緯が少しずつ明らかになっていき、現在と交錯していく。

折に触れて自然な形で状況を整理するのは良かった。お節介にならない程々の範囲で個人的には丁度いい。
読み手の記憶力に対する配慮は、シナリオ重視の作品にとっては不可欠。

時折挿入されるコメディ部分は、清涼剤としての役割を果たしており、
ホラー部分やシリアスパートで強張った心を適宜に和らげてくれる。

二週目をプレイすると、所々麗子が影から皆を支えていたことがそれとなく判るようになっている。
有華との演奏によって明らかとなった、鈴の持つ本当の才能に対する説明も、麗子が行うことで説得力が増している。

過去では灯音が転校してきた側で、現在では有華が転校してきた側という構図が面白かった。
排他的な貴族社会を体現していた学園の旧体制、開かれた自由な新体制も合わせて。

心の悩みがそれぞれ音に出ているというのも良い。それに向き合うことで少女たちは前へ進んでいく。

本作において、音楽は心のモチーフであり、主に音楽を通じて互いを理解していく。
逆説的に言えば、お互いを理解することで、彼女達の音楽は完成されていく。

わずか数日の特訓とはいえ、真弥があれだけの急成長を見せたのは、
音楽は体で鳴らすだけではなく、心で奏でるものだからである。(少なくとも本作においては)

灯音は小夜子の音に出会い、鈴は有華の音に出会う。そこを起点として二人の関係は始まっていく。
彼女達の関係が割と急速に進展するのは、音楽を通じて互いの心に触れた為であり、
そこにはそれぞれ二人だけの特別な絆が存在している。

先人に対する敬意が足りないと言っていた有華の言葉が、
後に明らかとなる二重奏での完璧な演奏を目指していた小夜子と灯音への
前振りとなっている。(狂気に支配されている時の小夜子は、他の編曲による演奏を冒涜と感じている)

最終的には、小夜子と灯音の後悔した気持ちを汲み取り、あり得たかもしれない希望として
五重奏を奏で説得することで、囚われた心を解放することになる。

曲を解釈する → 曲に込められた思いを汲み取る → 小夜子と灯音の気持ちを知る
つまり、こういった構成になっている。

『水の変態』は、物語を理解する為の鍵となっていて、構成上非常に重要である。
それは始めの方で妙蓮が語った気持ちの変化にも通じている。移ろいゆく水の在り方は、変わりゆく心の象徴である。

有華の父が語っていたことは、有華の音楽に対してだけでなく、
灯音に出会う前の小夜子に対しても当てはまるものになっている。

『私の音楽を完成させてくれる片翼』。
小夜子にとっての灯音は、有華にとっての鈴であり、そこには二人だけの特別な絆がある。

二人の間には誰も入れないが、有華と鈴のそばには仲間たちがいる。

小夜子(の音楽)にとっては、灯音さえいれば必要十分であり、
有華(の音楽)にとっては、鈴は必要だが他の者も受け入れて初めて完成する。

有華と小夜子の違いは、小夜子には自分を導いてくれる存在がいなかったこと。(以前の有華も同じく、皇道流より音楽の神に自身を捧げていた)
そして、その孤独があまりにも長く深過ぎたが為に、音楽の神が遣わした天使そのものである灯音と二人だけの閉じた世界を築いたことにある。
有華は父の薦めをきっかけとし、小夜子に導かれ、鈴と出会い、仲間たちと手を取り合い広い世界を知った。

そして、音楽と開かれた世界への扉を開いてくれたのが、美佐江とその父である。
美佐江の父は学園の買収を見送ったものの、美佐江が後に買収し新体制を築いた。
(筆者の記憶が曖昧な為、この辺の事情については後日書き直すかもしれない)

美佐江たちに導かれた灯音は運命の相手に出会い、心と音を重ねたものの、後に引き裂かれてしまう。
灯音に導かれた鈴は外の世界を知り、有華に出会い、両翼となる。

小夜子と灯音は二重奏、有華と鈴がメインでの五重奏は、
それぞれ閉じた世界と開かれた世界を象徴している。

また、負傷した有華が担当するはずだったパートの一部を、麗子が肩代わりするというのは、
困った時に助けを求めていい、開かれた世界に手を伸ばすということを象徴している。

個人的には、閉じた世界と開かれた世界は、どちらも美しいと感じている。

灯音と鈴の耳の良さは、音楽に対する感受性と才能を示しているが、
それぞれ運命の相手と出会う際にも表れており、
灯音と小夜子の二人がいずれ向こう側で再会することへの希望となっている。

こうした練られた有機的な構成こそ、本作の物語が真に名作たる所以(ゆえん)である。

ルートデザインについて。

シンプルで攻略に手間取らないのが良かった。
攻略の為だけに繰り返しプレイしていると熱が冷めてしまう為。

カップリングの固定と選択式についてだが、
個人的にはシナリオが優れていればどちらでもいいと考えている。

脚本について。

作中で自ら言及してはいるものの、情報収集の為に積極的に夢を見ようとするのは少々無理があるように思えた。

夢は受動的に暗に何かをほのめかし、ヒントを与えるくらいに留めるのが妥当。

それと、手帳に自らの凶行を書き記し、証拠を残すという事はほとんどあり得ないと言える。
しかし、それが分からない程に狂ってしまったのだと考えることも出来る。

累が電車の踏切で助けられて難を逃れた後、状況的にギャグを挟むのは少しどうかと思う。
とは言え、ネタ自体は面白く思わず吹き出してしまった。

地の文でたまに、主人公が読み手に対して解説を行うような箇所がいくつか見られたが、
これは他の作品においてもよく見られる程度。

決戦前にガールズトークは流石に少し気が抜ける上、小夜子と対峙した時の
合奏の描写がダイジェストのようになっている。(前者は恐怖に立ち向かう為、あえてそうしていたのではあるが)
同様に、真弥と有華の対決時においても演奏部分の描写が割と端折られている。

箏爪を交換するシーンや妙蓮が本懐を遂げる場面、箏爪を頼りに二人が再会したところなどは
頬を濡らすさずにはいられなかった。

旧校舎を取り壊さずに改修するのは、想い出を残すことと、悲劇も受け容れることの象徴となっている。
ノーマルエンドのラストにおける光と影を両方感じさせる鈴の表情も同じく。

姉妹制度を知らずに“お姉さま”と灯音が口にした場面は、百合作品としての本作を象徴するものであり、
それを承認する立ち合いは、姉妹の絆が永遠であることを示している。
姉妹の関係性を讃え、それを理想化しつつ、そこに音楽という二人だけの特別な絆を併せ持たせたところに本作の価値がある。

百合は伝統的に、精神的な繋がりを重視するものである。
その人自身に会うよりも先に、その人の音に出会い、その人の音に惹かれる。
つまり、真っ先にその人の心に惹かれているという点も含め、本作は百合作品としての純度が非常に高いと言える。
(一目惚れ、つまり外見に惹かれた場合は、生物学的に女性同士という点が強調される為、それはそれで良い)

テキストについて。

基本的には先に述べた通り、特にクセは無く、
ことわざを斜め上に言い換えるところなどは面白かった。

詩的な表現も豊富。使いどころも心得ていて心地がいい。
表現にくどさや雑味が無く、のど越しが良い。

演奏に関して凄みを感じさせる描写が見事だった。
また、これによって、四幕から五幕にかけて崩れた態勢から持ち直すことが出来ていた。

主人公は常に一人称だが、他は場合に応じて一人称と三人称を使い分けていた。
心情を語る時には一人称を用い、状況を説明するだけの時には概ね三人称が用いられていた。
これによって、感情移入の無駄な分散を避けることが出来ていた。

その他。

姉妹制度を知らずに、小夜子をお姉さまと呼んだ灯音。
同学年でも有華をお姉様と呼んだ真弥。
美佐江のことをお姉ちゃんと呼んだ灯音。(小説)
どれも記憶に残るものだったが、やはり小夜子に対するそれが最も印象的だった。

“お姉さま”には、敬意と親しみと丁寧さが程よく感じられ、
“お姉様”には上記のうち敬意が最も強く感じられる。
そして“お姉ちゃん”には親しみが最も強く込められている感じを受ける。

本編では有華の父、小説では美佐江の父など、男性の登場人物も尊敬に値する紳士がいて好印象。
どちらも理想の父親像であると言える。

誤字脱字はおそらく一度も無かったが、読み間違いらしきものは二度あった。(市井)
だがそれは全く取るに足らないこと。

構成とボリューム的にはアニメ化にも適した作りになっている。



◇演技:


累の明るい感じの声で怪談を語る対比が良かった。本作の賑やか担当。
部長に出会い、“走る”ことを取り戻した時の歓喜の声が胸に響く。

真弥は普段おとなしい為、消え入り壊れそうになるところと
感情を爆発させるところの幅が大きく、強く印象付けられた。
鈴の隣にいる為、有華に挑む決意の声に心を振るわせられた。

麗子はおっとりしていてマイペースな感じだが、
演奏家生命の絶たれかねないケガを負った有華を心配した際の
切実で悲痛な声が忘れられない。

鈴はどこまでも真っ直ぐで明るい声をしていて
聞いていると前向きな気持ちになれる。まさしく主人公といった感じ。
有華と二人でいる時のしっとりした感じも良い。

有華が泣きながら感情をあらわにする場面は、
有華の変化を象徴していて、琴線に触れるものがあった。
声に気品があり普段は落ち着いているということもあり、非常に心を揺さぶられた。

小夜子の灯音に話しかける声は優しく、慈愛に満ちていて、
音楽のようにいつまでも聞いていたくなる声音をしている。まさに永遠のお姉さま。

箏爪を頼りに再会し、灯音の真実を知った時、
自分がいかに愛されていたかを感じた小夜子の息遣いが特に印象的だった。
洗礼、祝福、心からの安堵……そういった感情がその一瞬に込められていた。

妙蓮(灯音)に関しても何か書きたいところではあるが、
見せ場となるシーンで毎回視界がぼやけ、肩を震わせてしまう為、
何か書きたくとも結局書けなくなってしまう。



◆演出:
(スクリプト、画面作り)


立ち絵を動かす、フェイドアウト、カットイン、フラッシュで一瞬の回想、
揺らめく背景に色収差(複数のパターンあり)、血が滴る演出、弦が切れる演出、弦が絡みつく演出など、
多岐に渡って使用されている。(ここに挙げていないものがいくつもある)

緑と紫の色収差は時間のズレを表し、過去と現在の交錯する感じが表現されている。(旧校舎)
緑と赤の色収差は主人公の動揺した主観が表現されている。(転落事件)
ただしこれは概ね筆者の個人的な感じ方に過ぎない。

回想時の画調も四種類ほどのパターンがある。
白いシルキーな感じは、比較的記憶の新しいもの、
セピア色は昔のことを、セピア色+映写機ノイズは夢(昔)を表しているなど。
更に背景を滲ませるような感じを重ねる場合もあった。

重ねた声をずらす音響効果にはかなりの恐怖感があった。
(麗子に憑りついていた時の小夜子)

目や口を動かす演出を求めていた方もいるようだが、個人的には不要。
その理由は、常時それらが動いていると文字を読むのに集中出来なくなる為。
(イラストではなく、3Dの場合は動きがあった方が良い。地の文が無く、セリフだけで構成されている場合がほとんどである為)

広角レンズの歪みや遠近感を用いて狂気を演出したりもしていた。被写界深度によるボケなども。



◇作画:
(キャラクターデザイン、原画、塗り)


半逆光の中、手帳を手にして微笑む小夜子。およそ見た者全てを妹に変えてしまう素晴らしい絵。
想いが乗せられた文章と併さり、現実での時が止まり、その場に自分がいるかのような錯覚すら覚えた。

麗子の真剣な表情と佇まい。おもわず呼吸が止まり、研ぎ澄まされた刀を見るように惹きつけられた。

ノーマルエンドのクライマックス、灯音が小夜子を抱きしめるシーン。
個人的には、演出的に灯音が若い頃の姿に戻っている方が良かったように思えた。
しかし、あの尼の姿は、重ねてきた悔恨と年月、灯音の小夜子に対する想いの深さを物語る
ものであるから、心の目で見るなら、こちらの方が美しいと言える。

パッケージイラストの切れた赤い糸(弦)は、引き裂かれた二人の絆と心中を表すダブルミーニングになっている。

箏爪を指輪のように交換するのは、愛を表す指輪の代替品としてではなく、
そこに音楽を含めた二人だけの特別な絆を象徴している。
目で見るだけでも美しい光景だが、心の目で見ると真の美しさが感じられる。

鈴たちの制服の紺色に、さりげなく赤青緑を入れている。
場合にもよるが、髪にも赤と緑が入っていたりする。
立ち絵の髪に青が入っているのはスカイライトを意識している為か。

控えめでさりげなく光の粒子(パーティクル)を入れていることがある。

妙蓮の顔について、愛情をもってシワが描かれているように感じた。

キャラデザに関するプロデューサーのコメントは興味深かった。(小説に付属の資料にて)

一部の立ち絵において、左右の鎖骨が少々くっつき過ぎていることが見られたが、画力は非常に高い。



◆音楽:


真弥と後輩の過去におけるやりとりの間、BGMの切り替えが行われていないのが少々残念。
有華の来訪時、鈴が楽しむ演奏に関して熱弁を振るっている最中も暗い曲のまま。
珠子に話を聞き、真実の一部を知った後に調査を続けると決めた時も同じく。
麗子の核心が明らかになり、皆がそれを受け止めるところだが、BGMが合ってないように感じた。
痛々しい曲のままではなく、曇りが晴れて抜けるような快晴を思わせる清々しい曲が個人的には欲しかった。

練習の際に失敗して音を外したパターンなどがあれば、音響演出的にプラスだった。

キャラごとの専用曲があると良かったが、メインテーマはアレンジを含めて数パターンあったのは良かった。

『水の変態』のバリエーションも豊富で、演奏にまつわる各シーンを印象的なものとしていた。
『黒髪』は象徴的に用いられ、小夜子を想起させるものとなっている。この辺りを理由に音響演出に加点した。

箏がメインの作品は珍しい為、本作のイメージを強く印象付けている。

筆者は音楽について語る口を持っていないが、「月と灯」はどれも名曲だと思う。
部屋を暗くして物語を思い出しながら、何度も聴き入っている。



◇効果音:


十分に付せられていた。

各章の合間や、システム画面への移動の際に箏の音を用いるのは気が利いている。

強く抱きしめたわけではないシーンでも、ガバッ!みたいな効果音になっている。
スッ……みたいな衣擦れの方が自然。



◆背景:


背景の情報量は控えめで目に優しい。

鈴の部屋が幼少時と現在で使い回しだった。



◇システム:


シンプルで洗練されたUI。

視認性の高いテキスト。(フォントサイズと明暗比)

テキストボックスは大きめで、絵は見られる範囲が少なくなっている。
しかしそれはテキストとイラストがトレードオフの関係であり、適切な範囲内に収まっている。
セーブやロードなどのタブが付いていない為、読むことに集中しやすい。

人称視点の切り替え時、アイキャッチなどを挿入してくれないと、気持ちの切り替えがしにくい。
ボイス音量の個別調整は無い。とは言え、これらはあると良いくらいで、必ずしもなくてはならないものではないが。

バックログはロードで消える仕様。ただし、これは多くのゲームでもそうなっている。



◆他:


再プレイすることで、プレイヤーは灯音や小夜子の視点からも物語を眺めることが出来る。
それによって、初めて触れた時よりも強く感情が突き動かされるようになっている。

小説を読むことで、より深く作品世界に没入することが出来る。



◇結語:


素晴らしい百合ゲームに出合えたことに感謝。

本作は日本一ソフトウェアの誇りとなり、その社名に相応しい作品になったものと思われる。
雑音は聞き流し、本作プロデューサーとシナリオライターを先駆けとし、百合の未来を切り開いて欲しい。

結論としては、本作は百合界における不朽の名作として絶えず
輝きを放ち続け、永遠に語り継がれることだろう。
本作こそ、我らを導く星座である。







☆後記:


小説で真弥が有華に百合本を貸していて、思わず笑ってしまいました。

そういうのを意識していない鈴と有華の自然な感じが見たい……
いや、しかし意識してしまってギクシャクして何とも言えない空気感を眺めるのもそれはそれで……

私は一人の百合好きとして、とても真弥ちゃんには敵いそうもありません。

真弥は気弱で頼りなさげでしたが、鈴のパートナーの座をかけて
有華に挑むところはカッコよかったですね。
後輩からも愛されていますし、有華ちゃんのご両親ばりにその成長ぶりに泣きそうです。
生クリームが苦手な鈴の為にお菓子作りを始めたというのも心暖まります。

ちなみに一番好きなギャグは、<仲良きことはヤンバルクイナ!!>でした。
ヤンバルクイナってなんなんだ~!と思う方もいるかも知れませんね。

累の演説ごっこや合奏クラッシュにメソポタミア饅頭、スリランカの首都、
モテ期に死を送る、ステルス戦闘機も疲労回復なども楽しませてもらいました。

<筝曲部の狂犬チワワ>というのもクスリときました。

累の走る音にそういう経緯があったとは。
おっとりしている麗子にも抱えているものがあったのは予想外でした。
しかも幼い頃に小夜子と出会っていたという点も含め、驚きの連続でした。

鈴と有華の同棲……
きっと朝の弱い有華を鈴が起こしてあげるんでしょうね。
どんな風に起こしてあげるのか、凄く気になります。
中々起きずになんだか二度寝したくなってきて同じ布団で寝てしまうとかどうでしょう。
それを目撃した真弥ちゃんが勘違いして気を遣ってあげたりなんかしちゃって――

失礼しました。妄想が止まりませんでした。

有華が鈴の家に初めて訪れた時、話をお互いに切り出そうとする時の感じが
初々しい恋人同士のようで微笑ましかったです。

浅草観光の時の有華ちゃん、気恥ずかしそうな表情が可愛過ぎです。

いずれ高校を卒業しても、
少なくともしばらくは皆一緒でいられるということに安心しました。

灯音に対する感情移入が深かったので、麗子と小夜子の抱擁を見て
チクリと胸が痛みました。そんな風に灯音は感じないでしょうけれど。

灯音が出家する日の門出、美佐江の想いにも涙腺が緩みました。

ピザに関してなんですが、鈴が初めて寺に来てから食べた時のことです。
灯音の過去を知った上で見るとなぜか視界が滲んできました。

鈴が身代わりとして小夜子と逝こうと弱気になり、
有華が感情をあらわにしたところも目頭が熱くなりました。

箏爪を交換するシーンや妙蓮が本懐を遂げる場面、箏爪を頼りに二人が再会したところなど、
灯音と小夜子の二人に関しては特に心を震わせられました。

二週目をプレイし直した際は、お姉さまとの些細なやりとりを眺めていると、なぜか涙が溢れてきました。
上に挙げた三つの名場面でまた泣く予定だったので、自分でもわけが分からなくなってしまいました。
灯音が小夜子との二重奏をイメージしながら弾いた後、小夜子が涙する場面や、
二人だけの世界へ行くことを決めた時も同じく。

読者諸賢に説明する必要はないとは思いますが、
高貴なお方が逝くことを、「お隠れになる」と言いますね。

灯音なら小夜子を見つけられないはずはありません。

あれほど深く愛し合っている者たちを引き裂くことは
神様にだって出来ないだろう、と思いました。





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