
◆序文:
(注意点、心得)
まず始めに、本作において大きな欠点はほとんど存在しない。
しかし特に残念であるのは直接キスをしている絵が無いという点。
キスの前後はあっても、唇を重ねているものは無い。
バッドエンドは某看護シリーズと同様に、衝撃的な結末を迎える。
しかしこちらは、分岐が早く、分岐後の全体に渡ってその調子である為、
シナリオ構成の労がそちらよりも割かれている。
個人的には、少々バッドルートに力を入れ過ぎなように感じる。
しかし何がどこまで起こるか予測が付きにくい分、グッドルートより表面的な面白さは遥かに上回っている。
“表面的な面白さ”とは、先が気になるが終われば何も残らないものを指す。
男性教師が、偶然に上の二人の下着を見てしまう場面が一回だけあるが、
別段ちょっかいを出してくることはない。振る舞いは紳士的であり、嫌悪感を抱くことはないだろう。
紆余曲折を経て、本作は発売される運びとなったが、
本来は親友の二人がカップルになるルートがあったのではないかと思われる。
その根拠は、本作が一般的なフルプライス作品におけるボリュームの半分程度のCGとシナリオ量であった為。
(価格の比較は、本作の豪華版に対して)
とはいえ、シナリオに水増しは無い上、絵のクオリティも極めて高い。
筋肉や骨の適度な影付けが、健康的で自然、かつ官能的。具体的には「作画」項で言及する。
二人だけに焦点を絞ったことで、時間に比して感情移入量は多い。
葛藤や背徳はあるが、重過ぎず、湿度はそれほど高くない。
繊細な範囲にとどまっているのは、個人的には好印象。(ただしグッドルートに限る)
以下、ネタバレは無し。
◇:攻略
プレイ時間目安:約十五時間
共通部分 : 約二時間
一果視点グッドエンド・双葉視点グッドエンド : 約四時間ずつ
一果視点バッドエンド・双葉視点バッドエンド : 約二時間半ずつ
視点というのは、一人称の視点のことで、物語自体は異なる。
つまり同じ物語を異なる人物の視点で見るような、水増し的な要素は皆無ということ。
ゲージが半分付近で、片寄っている方のキャラでグッドエンドを迎える。
ゲージを極端に片寄らせれば、片寄っている方のキャラでバッドエンドに。
簡易表:
脚本 (what to tell 何を描くか)
一果 |
双葉 |
|
物語 | C |
C |
構成 | C |
C |
(※一.物語とは、世界の変革、個人の心境変化、それらの変化量。描出すべき事象の過不足の無さ)
(※二.構成とは、物語を描く為の適切な場面の配置、伏線、起伏、溜め、ミスリード、小道具の使用等)
演出 (how to show どう描くか)
一果 | 双葉 | |
脚本的 | B- | B- |
作画的 | B | B |
音響的 | B- | B- |
スクリプト | B- | B- |
(※一.脚本的演出とは、見せ場を指す。出会い、別れ、愛情、信頼、危機、対決、和解、真実の劇的発露)
(※二.作画的演出とは、印象的な絵。構図、背景、表情、所作、衣装、色、光、象徴、対比、レンズ効果等)
(※三.音響的演出とは、音楽と効果音の使い方。挿入歌は含むが、演技とシステムボイスは含めない)
(※四.スクリプトとは、画面効果を指す。アイキャッチ、ワイプ、暗転、立ち位置や表情の変化等も含む)
◆脚本:
(シナリオ、構成、テキスト、表現)
まずシナリオ全体について。
衝突が弱い為、大きなドラマが生まれることは無かった。
共通部分とグッドルートを合わせて六時間ほどの分量では、
ADVゲームにおいては短か過ぎると考える。
次に構成について。
数分前にあったことの回想を見せるのが何度もあったが、
読み手は十分に覚えている範囲だと思われる為、使用頻度の過剰さが目に付いた。
少々おせっかいな所ではあるが、逆に言えば親切であるとも言える。
テキストについて。
改行は、助詞や句読点で区切るように配慮されていて読み易い。
他作品でもそれなりに見られることではあるが、時折プレイヤーに語りかけているような箇所がある。
これによって、キャラに親近感を覚えるが、同時に物語世界の外側にいることを
意識させられ、没入感が多少減るよう感じられる。
誤字脱字は一回も無かったと思う。
双葉視点の、少々子供っぽいテキストは実に可愛らしい。
一果の方は、肩の力を抜きつつも背筋が伸びている感じで心地が良い。
少しテキストを抜粋する。
言うまでもないだろうけれど、両テキストは異なる場面から引用している。
双葉の方は少し病み始めていて、引用すべき箇所を誤った気がしないでもないが、
擬音の多さと単純な語彙に着目して頂きたい。
双葉 「おなか空いてもちょっぴり切なくて悲しいけど、 もっとがんばらなきゃね」 ぐぅぐぅと鳴るおなかの虫さんが治まるように、 双葉はまたおなかをなでなでして目を閉じた。 そんなこんなで一果に心配してもらおうと、 双葉はいっぱいがんばったよ。 食べるごはんの量をだんだん少なくして、 大好きなお菓子もがまんした。 |
一果 「そう」 ひとつ頷いた百合は、 最後にわたしの頭をぽんと叩いて 自席へと戻っていった。 休み時間になり、わたしはすぐに教室を出た。 一応、双葉がきちんと学校へと来ているのかを 確認しようと思ったからだ。 ずっと一緒に行動してきたわたし達は、 病欠なんかのごく少ない例外を除いて、 幼稚園から一度も別々に登校したことがない。 さすがにひとりで学校へ行けない、なんてことは ないと思うけれど…… どうしても、自分の目で双葉の姿を見なければ 気持ちが落ち着かなかった。 その双葉とは、3クラス分教室が離れている。 はやる気持ちをなだめながら、足を踏み出す。 |
最後に人物について。
親友の二人は双子のことを良く理解していて、
時に厳しい言葉も投げ掛けてくれる良い友人だ。
四人の関係も、もっと掘り下げて知りたいと思わせてくれた。
◇演技:
演者とキャラのミスマッチは、当然ではあるが一人も見られなかった。
バッドルートでは少しづつ壊れていく様を、良く演出していたと思う。
◆演出:
(スクリプト、画面作り)
視点が切り替わる際に、アイキャッチ等が無い為、気持ちの切り替えが上手くいかない。
ガラスが割れる様に画面を割り、その音を重ね、同時に色も反転させる箇所があった。
真新しさは全くないが、適切な使い所を心掛けている。
シェイク(画面を振る)や、ワイプ(画面切り替えの手法の一つ)、
ゆっくりと暗転させる等それなりにスクリプトの使用も見られた。
立ち絵も割と細かく動かしていた。立ち絵時に他のキャラがいる際に、
焦点を二人だけに合わせていた箇所もあった。
まぶたの開閉を表現するものや、涙を流している場合は画面をぼかしたりする事もあった。
◇作画:
(キャラクターデザイン、原画、塗り)
立ち絵におけるスカートの動き(乱れ)具合に、各人物の性格が演出されていて良い。
唯一違和感を覚えたのは、ギャラリーの十二枚目における双葉の横顔が、
口が開き過ぎてパックマンのようになっているという点。
個人的には、縦方向のまつ毛はもう少し細い方が好み。
しかし至近距離で注視しなければ、特には気にならない。
「序文」で述べた通り、影付けはこの上なく自然かつ丁寧。
性的な部分(上と下)の周囲の影は
控え目で品がありつつ、可愛らしい絵柄にほのかな官能を感じさせる。
一般的には、影を潰して平面的になるか、過剰に影付けがなされて
品を損なうような場合が見られるが、本作の影付けは過不足がなく実に程良い塩梅であった。
少し例を挙げておこう。
内転筋における程良い影付けは、以下で確認できる。
ギャラリーの八枚目、二十一枚目、二十八枚目、二十九枚目、三十五枚目、それと十四枚目の差分五枚目。
肋骨の程良い影付けは八枚目と二十八枚目に見られる。
◆音楽:
デフォルトで小音量だった為、あまり聴き入ることはなかった。
歌とそのインストを入れて、全部で二十曲。
同メーカーの他作品の曲を一部流用しているらしい。
おそらくは、恐怖心を煽るような暗い曲がいくつかあったが、それらだろうか。
使い所を誤っているような箇所は見られなかった。
◇効果音:
鍵をかける音、扉を開く音、足音、車のエンジン、車のドアを閉める音、
チャイム、滝の音、倒れる音、時計の音、腹の音、ボウルを落とす音、鳥のさえずり等、
この他にも数倍くらいはあっただろう。
◆背景:
住宅街で色とりどりの星空が視えるのは不自然。(演出的な意図は特になし)
弁当箱や部屋に個性が出ているのは良い演出。
前者は、明るいプラスチックの物や、荘重な漆塗りの重箱、無骨なアルミ製など。
後者は、余計な物は置かないのと、小物や動物のぬいぐるみ(あるいは置物)を置いたりなど。
適度に背景をボカして主題を明確にする演出も、数枚見られた。
◇システム:
音量調整は、モブキャラで男性と女性を分けているのは良い。
バックログはゲーム終了で消える。
プレイしてから終了せずにロードすると、そこまでのログが残る。
この時、文章の切れ目が曖昧で、別キャラのセリフと主人公の内面描写が混同され易くなっている。
つまり、適切な改行が行われておらず、読みにくくなっているということ。
バックログに移行すると、発話中に音声が終了するのは良くない。
システムをデフォルトに戻す機能が無い。
初回プレイ時のみ不安定だったが、XPでも動作する。
(特定のキャラの音声の再生後に、十秒程止まるのが数十回あった)
◆他:
特に言う事はない。
◇結語:
シナリオ的に特に優れた箇所があったとは思わないが、
不快に感じるような所は皆無だった。分量は少ないが水増しが無いのは良い。
テキストにも癖はほとんど無く、非常に読み易いものだった。
優れた作画が最大の美点だと考える。
グッドエンドでは幸福な気持ちになれた。
物語性のある実姉妹での関係を主眼にした百合作品の中では、最も好きな作品になった。
百合と沙希の物語も見たい。続編や完全版の制作がなされる事を願う。
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