
◆序文:
(注意点、心得)
十分に練られていないシーンの数々、設定の軽視、システム面の至らなさ、決して問題は少なくない。
しかしながら無印から完全版にかけて向上が見られ、物語を描く事を何より大事にしていた。
間隙の多い脚本だが、好意的に捉えれば、そこにプレイヤーの自主性が介在する余地がある。
換言すれば、物事の間に、何があったかを自分で考えたり出来るという事。
音楽ゲームパートは、真面目に打ち込んだ方が
主人公との一体感が得られ、物語に没入する事が出来るだろう。
一応断っておくと、筆者は二回程プレイして直ぐにオートに切り替えた。
完全版(La finale)までプレイして、初めて本作は完成する。
二作目(Sweet harmony)まででは、本作の魅力は半分たりとて伝わらない。
以下、ネタバレは「脚本」と「後記」の項のみ。
◇:攻略
プレイ時間目安:五十時間
シナリオ分岐の全体図があり、全容が一見して分かる為、以下が参考になる。
無印までの部分は、選択肢は場所を選ぶ形でヒントが無い為、素直に見てしまう方が良いだろう。
http://brightbell.main.jp/kipima/game/solfege/index.html
攻略に当たり、大変参考にさせて頂きました。この場にて感謝する次第です。
簡易表:
(E-からA+まで)
シナリオ量の配分は、プロローグと共通ルートをすくねルートに含めると、
左からおよそ、三割、二割、二割、一割五分、五分、五分、五分。
脚本 (what to tell 何を描くか)
すくね |
ちほ |
まり |
琴美 |
織歌 |
未羽 | 織歌&未羽 | |
物語 |
A- |
B+ |
C- | C | C | D+ | D+ |
構成 |
B | B+ |
C- | C | C- | D+ | D+ |
(※一.物語とは、世界の変革、個人の心境変化、それらの変化量。描出すべき事象の過不足の無さ)
(※二.構成とは、物語を描く為の適切な場面の配置、伏線、起伏、溜め、ミスリード、小道具の使用等)
音楽ゲームパートは演出に含まない。
演出 (how to show どう描くか)
すくね |
ちほ |
まり |
琴美 |
織歌 | 未羽 | 織歌&未羽 | |
脚本的 |
B | B |
C+ | C+ | B- | C+ | C |
作画的 |
A | B+ |
B | B- | C+ | C+ | C+ |
音響的 |
C+ | C+ | C+ | C+ | C+ | C+ | C+ |
スクリプト |
C+ | C+ | B- | C+ | C+ | C+ | C+ |
(※一.脚本的演出とは、見せ場を指す。出会い、別れ、愛情、信頼、危機、対決、和解、真実の劇的発露)
(※二.作画的演出とは、印象的な絵。構図、背景、表情、所作、衣装、色、光、象徴、対比、レンズ効果等)
(※三.音響的演出とは、音楽と効果音の使い方。挿入歌は含むが、演技とシステムボイスは含めない)
(※四.スクリプトとは、画面効果を指す。アイキャッチ、ワイプ、暗転、立ち位置や表情の変化等も含む)
◆脚本:
(シナリオ、構成、テキスト、表現)
物語自体に関しては特に個人的な感想になる為、「後記」の項にて言及。
まずは脚本について。
重要な見せ場を、音楽ゲームパートに投げてしまったのが最も残念だった。
仮に追加修正する事があるなら、最低数ヶ月はかけて一言一句に全霊を込めて描いて頂きたい。
またそれに限らず、一見しただけで刻み込まれる様なシーンというものがほとんど無かった。
プロローグが若干長い、シーンの主題がいくらか不明瞭になっていた。
コンクールの出場者発表のくだり、十分に時間をかけたのは良い。
受け容れ難い現実を受け容れるのには、時間が必要な為。
作品全体として、湿度が高過ぎないのは良かった。程良く繊細で、
過剰な暗さ、痛み、鬱、トラウマ(心的外傷)等とは無縁だった。
主人公の声音の明るさも、それに貢献していた。
すくねやちほルートの構成は、すれ違いや溜めが活きていて、心地の良いストレスだった。
(念の為に書くが、これは必要かつ良い意味でのストレスという事で、皮肉ではない)
過去の独白が早い時期に頻繁になされ、感情移入(自己投影)が多少阻まれた。
しかし中盤以降はそれが減る為、特に問題ではない。
時間の経過が不明瞭で、気付くと数週間が過ぎている。
ダイジェストの様になっていて、若干ではあるがプレイヤーを置き去りにする。
夏休みも一瞬で消化、しかしこの辺りはドラマCDで補っているらしい。これに関しては後日に検討する。
台詞ではないが、説明になってしまっている箇所が多い。
好意的に捉えれば、プレイヤーに対して親切であるとも言えよう。
だが、まりルートは特に説明過剰で、ある時に主人公が誰を想って楽器を弾いていたかなど、
プレイヤーにとっては言われるまでも無い事である。
その一方で、コンクール当日にまりの行方が分からなくなった時、
主人公が直ぐに見つけ出すのだが、その根拠については前振りが無く、
プレイヤーには突然その理由が独白で明かされる為、自己投影(感情移入)が損なわれ、茶番にしか見えない。
また、まりルートは、琴美(主人公の友人で、生徒会におけるまりの補佐役)から、
まりがどういった人物なのかが序盤の内に大概説明され尽くしてしまう為、
その後に何らの驚きや感動も無く、悪いシナリオ構成の見本のようだった。
共通ルートの一ヶ所のみだが、三人称視点で人物の解説を挟むのは良くない。
つまり、劇中の人物がプレイヤーを見ているという事。
回想の使い方にあまり見所は無かったが、一般的な範囲内に収まっていただろう。
無駄は少なく、頻度もそれ程多くはない。良かった点は「演出」項にて後述する。
脚本としての演技について。(脚本家は、登場人物を間接的に演じる)
泣き腫らした顔を見られるのを恥ずかしがったり、髪の乱れを気にするのは少女らしくて良い。
次に、設定について。
“フォルテール”なる楽器も、極めて曖昧で抽象的なものだった。
無論、旧作のファンへ向けたサービスであるという事は承知している。
小道具としての役割は果たしたが、所々問題があった。
まずは感覚で捉えるのが音であるのだから、もっと作り込むべきだと思われる。
ピアノに近いのか、シンセサイザーみたいな物なのか。全て“弾く人の心が……”
と言って説明するより、出来ればそれを、些細な音色の変化で演出されていればという所。
また、奏者や劇中で語られた曲のイメージと大きくかけ離れた一部の楽曲は、この上なく気分を盛り下げてくれる。
世界観が写実的になってしまうが、ピアノで済ますのも一つの手だったと思われる。
理想を言えば、現実で実際に新しく楽器を創造し、
その演奏法を確立する事だが、これは夢想に過ぎず途方も無い事だろう。
最後に、テキストについて。
“好き”という言葉が少々軽い、百回くらいは使われていた。
“ラブラブランチ”という表現、昭和の香りが漂っている。
スミス先生の、“「解離性同一性障害……ですね……?」”という台詞、
保険医でもないのだから、“二重人格”くらいが適切だ。
それと、人格だけが入れ替わっている時、つまり服装と髪がそのままの時、
立ち絵を流用するべきではないだろう。(「作画」項にて書くべき事だが、人格つながりでここに付した)
“片手で足りる人数”と言った直後に、三人と明示するなら、最初から三人と言えば良い。
この上なく些細な事だとは承知しているが、“ペコンと頭をさげて”というのは少し違和感がある。
主人公と親友の組合せに対して、担任が“珍しいコンビ”と述べるのも不自然だ。
選択肢後の場面において、齟齬(食い違い)がある。ある人物に対して、
イベント(アートフェスタ)のパートナーを断ったのにもかかわらず、返事をしていない事になっていた。
まりルートの、作風を壊しかねない表現の数々。
以下は言葉尻を捉える様だし、前後の文脈や演技の仕方、キャラの表情等によって
意味合いは変わってくるが、それらを考慮しても荒々しく、読むに堪えない。
“キレてる”、“キレた”、“目で射殺すことができるんじゃないかなぁ?”、
“視線で人を殺せるような目”、“……ブン殴るわよ?”、“その口縫いつけるわよ”
“見えない刃物で刺されたみたい”、“土下座でもしてくれるのかしら”、
“土下座しろって言ったら、天野先輩、ホントに土下座でもしてくれるんですか?”、
“あたし天野先輩をブン殴りに行きます”、“洗脳”、
“まりさまに土下座でもなんでもなさい!”、“コンクールなんてクソクラエ”、
“ふん、覚えてやがれ、ですわ!”。
以上のもの以外にもあと少しあったが、それらは割愛する。
またまりルートでは“遣り取り”、“掬う”等の漢字が目立つ一方、
ちほルート等ではひらがなが多く少々読みにくい。“だいじ”、“いわれて”、
“きこうとした”、“ことばに”、“おおきい”、“ちいさい”、“しずかに”、“ために”、“まるく”等。
英語にミススペルが一ヶ所あった。“Wondeaful”ではなく、“Wonderful”が正しい。
◇演技:
主人公はかなりのアニメ声で、シリアスさに欠ける。しかし、お陰で作風が暗くならずに済んでいる。
発音について、スミス先生の“アートフェスタ”は、アー↑トフェスタだろう。
外国人は日本語英語であっても、英語の発音とアクセントを守るのが一般的。
劇中でも八割方は、発音をネイティヴに近い様にしていた為、特に違和感を覚えた。
以下は織歌の台詞と、かぐらの心理描写を引用。
織歌 「では、わたしは宮藤先輩が落ち着くまで、 一人で練習をしておきます。わたしはソロでも出場可能ですし。」 織歌ちゃんは淡々と言う。 |
上記の箇所において、テキスト上では“淡々と言う”とあるが、
演技の上ではどこか悲しげで、本当はかぐらと演奏したいという感じが伝わって来た。
人物の心情を汲み取り、テキストを良い意味で無視した素晴らしい演技だった。
無論、台本にト書きがあった可能性は捨て切れないが。
他にも、ストリートライブ直後の織歌の泣くシーンは、最高に気持ちが込められていた。
それまでのシナリオの筋立てには、失礼ながら、別段良いと思う所が無かったので、
正直な所、筆者は気持ちが動かされる事は無いだろうと踏んでいたのだが、かなり涙腺が緩んでしまった。
◆演出:
(スクリプト、画面作り)
主人公の脳内会議を、左右に立ち絵を交互に表示しながら行うのは良かった。
テキストを二分割して、間に立ち絵変化を入れるのは良い仕事。
回想において、特に記憶が鮮明な時は画調を変えないのも良い。
(単に忘れただけというのは違うと思われる、その根拠は回想の中間部のみが上記の状態だった為)
皿を割ってしまった時には、効果音とシェイク(画面を揺らす)を組み合わせる等、
それなりに丁寧に効果が付せられていた。
まりルートのみ、フラッシュバック(断片的回想の連続)があり、白いフラッシュと効果音が併用されていた。
ただし、効果音の音量が過剰気味だった。
ワイプ(画面転換の技法)の選び方にはこだわりが感じられない。
とは言え、これはほとんどの作品に当てはまる事。
◇作画:
(キャラクターデザイン、原画、塗り)
肌色が白過ぎて血色に欠ける。しかし三作目の個別CGではだいぶ緩和されている。
CG枚数は非常に多い、三作目は特に仕上がりが丁寧だった。髪の艶が良い。
すくねルートのラストカットは、特に表情に気持ちが込められていて、目を奪われた。
色彩においては、黄金色の光が特徴的だった。
衣装の数が多いのも良かった。制服は夏と冬の二つ、私服は四つで
その内の一つはパジャマ。それに水着が二つで、計八つ。これは主人公の例。
本編より、版権イラストの方が仕上げが三ランクほど上。力の配分が逆転していると言える。
追記:2016/02/04
版権イラストでは、彩色を原画家が自ら務めたのだと思われる。
◆音楽:
完全版(La finale)では一つのルート中、一回しか使われない曲もあり、
その為に一部のシーンが印象的になっていた。
使い所を誤ったと思われる箇所はあまり見当たらない。
歌を強引にねじ込んでいて、違和感が強い。
フォルテールという楽器がピアノの様に描かれているが、
音楽ゲームパート中ではポップスのような歌曲ばかり。
曲はピアノがメインだった。歌も含め、サウンドトラックで聴き直してから追記したい。
◇効果音:
スカートを払う時の音が不自然。“ボンボンッ!”というのはどんな材質だろうか。
擬音にしても、もう少し可愛らしいのにして頂きたい所だ。お腹の音も同様に。
足音や拍手に複数のパターンがある、チャイム、水飛沫、人が倒れる音、群衆のガヤつき、乾杯、
ノック音、ワープロを叩く音、ドアの開閉、お茶を淹れる音、噴水等、それなりに丁寧に効果音が付せられていた。
BGMと、効果音としての音楽(フレーズ演奏)が重なっていた。
しかし、こちらのOSや半自作PCが問題だったのかも知れない。
◆背景:
公園の時計が夕方でも十二時十五分を指していたのと、
学年が変わっても教室を流用していた事は、少々問題だ。
個性の出ている部屋が良かった。畳の上にピンクのカーペットを敷くのは、桜餅のようで色合いは良く、
何より少女らしさを感じる。畳+カーペットという邪道でもさまになるのは少女だけだろう。
メインヒロインの個室は書斎の様で知性的。親友と友人は寮で、
置き物の趣味や散らかり具合に個性が良く出ている。
◇システム:
ホイール下スクロールが無いのが痛い。手動の時はスペースキーを使うと多少楽。
オートタブがどこにあるのか分かり難い、最初にチュートリアルがあると良かっただろう。
序盤のみだったが、二通りのテキスト表示が厄介だった。
頻繁に視線を上下させるものだから、疲労が蓄積させられた。
バックログを行き来しても、音声が止まらないのは良い。
音楽ゲームは、担当楽器が一つではない為にリズムが取れず、
実際はタイピングゲームに過ぎない。難易度も非常に高い。
筆者の音楽ゲームの実力は、ゲームボーイという太古のゲーム機における、
『BeatManiaGB2』というソフトにおいて、最高難易度で全曲満点が取れるくらいだが、
本作の難易度イージーですらクリア出来なかった。
◆他:
音楽ゲーム中、デュエットの際に、SDキャラが同士が
笑いかけると応えてくれる事があるのが実に良い。
未羽の振り付けやハートのエフェクトも非常にに可愛らしい。
エンディングについてだが、未見ルートのCGを見せるのはマナー違反だ。
一方で、オープニングはルートが未定の為、仕方が無いと言えよう。
シナリオライターについて。
みやざー氏:
“元々「ソルフェージュ」の1作目の時に、
シナリオを外部の方にお願いしていたんですが、その中の一人が佐倉さんでした。”
http://www.gamer.ne.jp/news/201206230001/
宮永さくら氏 (ソルフェージュ) → 佐倉さくら氏 (白衣性恋愛症候群/白衣性愛情依存症)
円氏の担当は、まりの全シナリオ、琴美の追加シナリオ(Sweet harmony / 二作目)
Sweet harmonyの全プロット(構想)、La finaleの全シナリオ。
その他のライターに関しては以下の通り。敬称略。
「立花ひめ」、「きんかん堂」、「皆川浩治」(この方はディレクターの一人)。
ディレクターの指示や修正がある事は、以下に挙げた通り。
白衣性恋愛症候群 RE:Therapy 感想/詳細レビュー
◇結語:
欠点は多いが、物語を描く事を何よりも大切にしていた。
★後記:
すくねルートを先に終えた為、
他のルートで“宮藤さん”とすくねに呼ばれる度に胸が痛んだ。
La finaleまでプレイして初めて、“かぐらの物語”から、“かぐらとすくねの物語”に至った様に思う。
すくねの人格が分裂したのが、かぐらを想う気持ちの大きさの顕われだったという事が解かる。
無印版における葵の、“まるで愛し合っているかのような……”という言葉も活きて来る。
ゆうなという存在も、すくねの望んだ姿でもあったという事が、La finaleにて明らかとなった。
変わろうとするすくねの行為は、ゆうなの存在がすくね自身の内に生きている様にも感じられた。
La finaleでのラストカット、見つめ合う二人の姿、ここに本作ソルフェージュの完成を見た。
欠けていたピースが全て埋まり、物語が一枚の絵の様に完結していた。
ちほルートも非常に良かった。
演奏家の両親の為に、好きでもない音楽を強制されて、楽器嫌いになっていたのに、
初めて弾きたいと心から思ったのが、親友の為だったというのが良い。
奇跡を手繰り寄せるだけの資格がある。それまでにもかぐらの為にパートナー探しで奔走し、
時にケンカして、時には励まし勇気付け笑い合い、友の痛みを自分の痛みとする真実の友人。
最終的にはもう一つ別の関係が加わる訳だが、それにもまた、そうなるだけの十分な理由が描かれていた。
目を閉じると、かぐらとちほが互いを呼び合う声が聞こえるようだ。
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