
◆序文:
(注意点、心得)
文字が読みにくい事が本作最大の欠点。
テキストボックスと透過調整の機能が無い為、文字が背景に溶け込み視認性が極めて悪い。
立ち絵も無く存在感に欠ける。(パッチを当てる事で顔は映る)
事前告知無しの分割商法。(本作発売の一年八ヶ月前に同人誌内で匂わせただけ)
一部シナリオ構成に問題あり、個人的にだが題材が地味。
『ふたりのクオリア』の二人は男女関係にしか見えない。
これらの欠点を補う程の面白さが無い。物語の内容に比べてテキスト量も多く、締まりに欠ける。
しかし誤字脱字の少なさ、文法間違いの無さ、判然とした表現の読み易さは一級品。
こうした日本語能力の高さと精神力の強さは、ライターの文章から伺い知れる。
惜しむらくは、シナリオ構成力とストレスコントロールの能力が欠落していると思われる点。
良質な音楽と笛氏の絵を目的とするならお薦め出来る。
クリアまでのプレイ時間は、どちらもデフォルトのオートモード速度で十二時間前後。
完結していないものをレビューするのは気が引けるが、
『おわりのクオリア』を終えた後、全面的に書き直す予定。(「おわり」の発売は未定)
「脚本」、「他」の項にネタバレあり、ご注意を。
◇攻略:
プレイ時間目安:二十四時間
選択肢によって結末は変わらない、選択しないままでいても先に進むが、同じエンディングを迎える。
簡易表:
脚本 (what to tell 何を描くか)
ひとり |
ふたり |
|
物語 |
C |
C |
構成 |
D |
C- |
(※一.物語とは、世界の変革、個人の心境変化、それらの変化量。描出すべき事象の過不足の無さ)
(※二.構成とは、物語を描く為の適切な場面の配置、伏線、起伏、溜め、ミスリード、小道具の使用等)
演出 (how to show どう描くか)
ひとり |
ふたり |
|
脚本的 |
B- |
B |
作画的 |
B |
B |
音響的 |
B- |
B+ |
スクリプト |
B- |
B |
(※一.脚本的演出とは、見せ場を指す。出会い、別れ、愛情、信頼、危機、対決、和解、真実の劇的発露)
(※二.作画的演出とは、印象的な絵。構図、背景、表情、所作、衣装、色、光、象徴、対比、レンズ効果等)
(※三.音響的演出とは、音楽と効果音の使い方。挿入歌は含むが、演技とシステムボイスは含めない)
(※四.スクリプトとは、画面効果を指す。アイキャッチ、ワイプ、暗転、立ち位置や表情の変化等も含む)
◆脚本:
(シナリオ、構成、テキスト、表現)
シナリオにおける特筆すべき点が特に無い。
それを印象付けたのは、題材自体が地味という事と、前半部分の平坦な構成にある。
花梨が吸血鬼という設定(未確定)から、
本来はスケールの大きいシナリオであるのかもしれないが、
クロスクオリアでは軽く触れるに留まっている。
「ひとり」の方は構成に問題がある。
後半に入るまでは起伏が無く平坦。物語が動かず、日常的な生活がひたすら続く。
文章量が多い割に情報量が少ない、つまり密度が低い。
時折、伏線や設定を垣間見せるくらいで、言ってしまえば退屈だ。
しかし後半に入ってからは良い面も見えてきて、心境の変化などは諧調が細かく丁寧。
テキスト自体は特に問題は無い。意味も捉えやすく、非常に丁寧に言葉が紡がれている。
シークエンス(一連のシーン)に関して、所々シーンの繋ぎ目が薄い事が挙げられる。
集中して読み通した場合は問題無いが、流し読みした場合には、
気付いたら同棲生活が始まっていた、などという風に思われるかも知れない。
ワンシーンがやたらと長く、プレイヤーに対するストレスコントロールが出来ていない。
二人だけの掛け合いばかりで、何度も同じ様な場面が繰り返される。
「ふたり」の方は、回想を織り交ぜる事も“ひとり”より多く見られ、
単調さを回避している。ここでの回想は本来の効用よりも、
単にリズム感やメリハリをもたらすものとして機能している。
人物間の絡み(組合せ)も、「ふたり」の方が様々であり、それ故に情報量も多い。
「ふたり」の二人は百合というより、ほとんど男女の関係に見える。
設定初期の段階におけるギンザの性別が男性であった為、その名残と言える。
この事はメガストア九月号から引用。
誤字脱字はそれぞれ五回前後で、テキストの分量に比して少ない。
◇演技:
どの声優も役にハマっていたと思われる。
特に、来夏が“事件”について語るくだりは真に迫っていた。
下世話ではあるが、ギンザの呻き声が何とも艶めかしい。
“拾ったイケメン、女の子”というキャッチフレーズは、並列ではなく、
イケメン=女の子、と解釈する同格用法なのかもしれない。
◆演出:
(スクリプト、画面作り)
ナツメの能力は「効果音」の項に付記。
立ち絵が無く、人物の存在感が乏しい。(パッチを当てることで顔は映る)
視点の変更、つまりその時の主役が交代する度、
アイキャッチとしてカットが挿入され、短い音楽が流れる。
これによって、気持ちの切り替えを促してくれる。
暗転も緩やかで、目に負担が掛からない。
チャット画面、携帯のメール画面等、細かい所まで作り込んである。
電車の路線図を分かりやすく見せるのは好印象。
小物類に人柄が出ていて良い、特に真希理の部屋。
◇作画:
(キャラクターデザイン、原画、塗り)
表情の豊かさ、特に真希理のそれが印象的。
頭身にデフォルメ、表情も正に自由自在。(それに胸のサイズも)
これまでの笛氏の絵に比べて、塗りは目に透明感があり、一部のキャラは髪に艶がある。
マニアックな方向のデフォルメバランス。
足がかなり細くなっていたり、よりロリ的な方向に向かっている。
当然だが、意図的と思われるもの以外で、バランスが崩れている様な箇所は見当たらない。
一部の絵において拡大して見ると、眼に消し忘れた線の様なものが見えるが、これは何なのか不明。
具体的に挙げると、来夏の独白時におけるナツメ、スーツを着たギンザ。
落書きの様な線もアイキャッチに描かれていたが、なんらかの演出だろうか。
◆音楽:
シナリオの分量に比べて曲数が少ない。オープニング、エンディングも無し。
重要なシーンで使われるものとしては、ピアノ曲、弦楽多重奏が多い。
『おわりのクオリア』では新規の曲を十曲以上追加して、サントラを販売して頂きたい。
◇効果音:
特筆すべき点は無いが、演出としては、ナツメの能力とテキスト外の台詞の使い方が良かった。
それぞれ、ナツメの苦悩が感じとれる、臨場感があるという意味で。
上述の能力設定が、演出と選択肢に結び付いている。
この時、“右の世界”のセリフは右チャンネルのスピーカーから音声が出て、
“左の世界”は左から出る様になっている。
◆背景:
場所によっては光の暖かみや空気感がある。
物は硬質で落ち着いているのが多い。立派な商業クオリティ。
『カタハネ』等のファンに向けた遊び心もある。
瑣末な事ではあるけれど、時計の針が常に同じ時間を指しているのに違和感を覚える。
◇システム:
テキストの表示関連以外に問題は無い。
◆他:
選択肢によって結末は変わらない。
テキストのデータ量は一作あたり六百キロバイト程度だそうだ。
原稿用紙(一枚当たり四百文字)に換算するとおよそ九百枚。これはメガストア九月号にて確認。
両作品の構成を、以下に箇条書きで列挙する。
起承転結で言えば、以下の様になった。
(もちろん、分割の仕方は人によって分かれる所)
『ひとりのクオリア』
起:全体の約一割
事故を起こさぬ様に、車から助けられる真希理。消えた花梨。
翌日、街に出て再会、頼まれて街を案内する真希理。
食事の為に牛丼をテイクアウト、真希理の住むマンションへ。
散らかった部屋を見せまいと待たせていると、帰ってしまう花梨。
翌日に花梨が来訪。二人で時間を過ごす。
コタツということもあり、眠ってしまう真希理。帰れぬ花梨。
(おそらくは戸締まりの問題)
承:全体の約五割
なし崩し的に始まる同居生活、
花梨によって真希理のただれた生活が徐々に改善して行く。
この生活の原因を探る為に花梨は、秘密裏に調査を開始する。
真希理に勧められたネットゲームにて知り合った、
真希理の友人ナツメに対し、事情を聞くことに。
当初はプレイヤーと真希理にとって、この数日間の花梨の行動は不明。
転:全体の約三割五分
調査に出ている間、花梨の部屋を掃除する真希理。
そこで見つけたメモが元で、花梨の行動を知る。
学校のことを聞くと体調が崩れる真希理。
またも調査に出る花梨、待つ真希理。
この間に真希理の抱える“症状”が明らかとなる。
約束していた“私物に触れない”を破ってしまっていた真希理。
出ていく花梨。反省する真希理。数日後に戻ってくる花梨。
(同居生活には戻らない)
学校に行くという約束を守らせようとするも、休日であることに気付く。
次いで、真希理の“会いたくない人”が存在することを知る花梨。
さらに調査を進め、当該の人物である来夏に会う花梨。
そこに出くわす真希理。
花梨にどこまで自分を知っているのか尋ねる真希理。答える花梨。
事情を話す真希理、過去を直視した反動で自失となる。
そこで花梨がある行動を取る。
その行為の訳を相談する為、ナツメの元を尋ねる真希理。
クラスメイトに出くわし、ついで“会いたくない人”来夏が訪れる。
件の“症状”が改善されていることに気付く真希理。
帰宅後、翌日に登校を控え準備を始める。
眠るまで花梨に傍にいてもらう真希理、“行為”の訳を尋ねる。
互いの気持ちを確かめ合う二人。
結:全体の約五分
休めば留年が決まるという運命の日、ついに学校へと向かう真希理。
一人で通えるかどうかを見守る花梨。
道中トラブルが起きるも、何とか授業に間に合うのであった。
エピローグ:数行の独白
花梨の正体をほのめかし、本編終了。
『ふたりのクオリア』
「ふたり」は「ひとり」より、物語の開始点が十日ほど後。それぞれ11/1(木)と、10/21(日)。
さらに、「ふたり」の方は場面を転換するにあたって、一度に三日過ぎることもあるので、
「ひとり」に比べて物語が動き出す時期が早い。
(この時期とは、物語内の時間ではなく、シナリオ構成上の時間である)
「ひとり」と違って人物が入り乱れている為、上手くまとめられてはいないだろう。(シナリオライターではなく私が)
早くから始まるこの構成の複雑さが、「ひとり」に比べて若干ではあるが面白く感じる理由。
起:全体の約一割五分
ネットゲームで真希理・花梨と遊ぶナツメ、
花梨との接点が生じる。
コンビニ帰り、工事現場の近くで怪我をしているギンザ見つける。
連れ帰って介抱することに。
病院に連れて行こうとするも嫌がるギンザ。
自分が出ていくか、キスをした上で部屋においてくれるかの二択を迫る。
仕方なくも受け入れるナツメ。
そうして同棲生活が始まる。
承:全体の約六割
ギンザ、ナツメの悩みを聞き出す。真希理のことを話すナツメ。
翌日のバイト帰り、ナツメは見覚えのある少女を目にする。
花梨からナツメに話しかける。
ナツメがネットゲームの“Zizi”であることを知っていたのは、
花梨が真希理に、ナツメの写真を見せてもらっていた為。
ナツメは花梨を以前にもニ回見ている。
一度は真希理と街にいる所、二度目は下校時。
真希理についての相談が始まる。
数日後、ナツメのバイトに付いて来るギンザ、
真希理についての相談に乗る。
翌日に体調を崩すナツメ、着替え途中の所をギンザと……(割愛)
さらに数日後、今度はギンザについて相談する為、
来夏に鉄馬との馴れ初めを聞く。
幼少時の話題へと至り、来夏の双子の姉の存在を知るナツメ。
翌日、来夏から姉と“事件”の顛末を聞く。
その翌日、ナツメはまたもギンザに
真希理について相談するも、見守る様に諭される。
ギンザ、恩返しと今後自分の取るべき道を考える。
花梨に真希理の留年が差し迫っていることを
伝えようとするも、真希理と“お別れ”したと聞かされるナツメ。
ナツメ、ギンザに相談する。
ギンザ、自分と花梨の話し合いの場を設けるよう、ナツメに頼む。
しかし気になって真希理の元を尋ね、
“事件”のことについて触れてしまうナツメ。
動揺し激昂する真希理。
ナツメ、自責の念に駆られる。ギンザ、公園で佇むナツメを見つける。
その日にあった事と今後について話す。
転:全体の約二割
ギンザは自らとナツメを取り巻く状況を鑑み、身を引くことを決める。
さらに翌日、学校に誘う為に真希理の元を尋ねるナツメ。
真希理、二日後になら行くと答える。
ナツメは、これは前日に花梨に助言を与えられたのだと推測する。
(以降は去ろうとするギンザとそれを追うナツメの形)
買い物を済ませ、帰宅するナツメ。
ギンザの姿が見当たらないことに気付く。
翌日の登校前、心当たりのある所を探して回る。
登校すると、電車に乗り込もうとするギンザを見つける。
理由を説明するギンザ、日雇いのバイトをしていたと話す。
翌日、お詫びを兼ねて、バイト先であった
マーメイドパラダイスにデートに行く。
バイト先を探すギンザ。
夜に外食の後、ナツメに部屋を出ていくことを伝える。
ナツメは学校でエリスに、
ギンザと自分がカップルであると思われていたと聞く。
授業も上の空。放課後を待たず途中で帰宅。
結:全体の約五分
二人で今後のことを話し合う。
ナツメは、ギンザが納得する様な範囲内で、
つまり、周囲に迷惑を掛けない形で、今の関係を続けることを提案する。
部屋の賃貸契約をルームシェアに替えるのはその一つ。
なおも納得しないギンザ、自分を引き留めたいなら、
方法は一つしかないと示唆。行動に移すナツメ。
結ばれる二人。
本編終了。
◇結語:
一本当たりはロープライスであるにもかかわらず、
システム周りは整備され、背景は上質、音楽も質に問題は無い。演技も良い。
しかし、背景に溶け込む文字、「ひとり」前半部における起伏の乏しい構成、
水増しした様なシナリオの薄さが全てを台無しにしている。
さらに事前告知無しの分割商法と来ては、目も当てられない。
本来の予定通り、テキストの分量は半分~三分の一が適切であったと思われる。
その場合、一般的に佳作と評される事になっただろう。
(このテキスト量の増加に関しては、十四年メガストア九月号にて言及されている)
完結しない限り、評価を決定する事は出来ない。
それ故、次回作『おわりのクオリア』は購入する予定。
本作が気に入った訳では無く、自分の中でこの作品を終わらせる為にということになる。
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