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きみから ~彼女と彼女の恋するバレンタイン~ 感想/レビュー


◆序文:
(注意点、心得)


前作よりも物語が描かれている。ボリュームが前作の倍ほどあるが、質は落としていない。

今作は人物のテンションをしっかりと下げたことで、十分な起伏が生じ、ある程度カタルシスが得られるようになっている。
無論、作風を維持した範囲内でだが。この辺りのさじ加減は絶妙だった。

人物の掘り下げがなされ、前作以上にその魅力が引き出されていた。


三人称視点で、状況の説明に天使の主観が割と混じっている為、シリアスな場面で不要な笑いが生じたりもする。
(当然、感じ方に個人差はあるだろう)

また、この主観的な三人称視点により、登場人物に対する投影が損なわれ、
クライマックスシーンでさえも現実に引き戻される感覚を味わうことになった。
(一人称>>三人称・客観>三人称・主観 の順で投影度は変わる)

日常系作品の場合、関係を外から見守る場合が多いが、
物語において十分なカタルシスを得るには、主に主人公に自己投影する必要がある。
(本作においては、構造上明確な主人公は存在しないが)

前作よりも三人称視点における仕掛けを重視した為、初回プレイ時には違和感を感じ続けながら読むことになるだろう。
ただし、二回目にプレイした際はその違和感は消え去り、見落としていた伏線や前振りを発見する楽しみが得られよう。

芸術性を重視する方は、今作は芸術点による加点が大いに与えられることになるだろう。(上述の仕掛けによって)
ちなみに、筆者は<娯楽作品は娯楽作品として作るべき>という考えであるから、芸術性による加点はほぼ行わない。

曲数が少なく、追加されたのは三曲のみ。合計で九曲だけであり、シーンを音響演出的に記号化してしまうことが割と見られた。

構成としては、読み手に対するテンションのコントロールがイマイチな所がいくつかあり、余韻に浸らせてくれないこともあった。


以上のように色々と気になる点も多かったが、全体として個人的には十分に満足している。

恋人達の甘いひと時が描かれていてバレンタインに相応しい作品となっている。
恋人になってからをこれだけ描いた百合ゲームは、筆者の知る限り他には無く、唯一無二の作品と言えるだろう。


以下、ネタバレは「脚本」、「演出」、「後記」においてのみ。



◇:攻略


プレイ時間目安:約十五時間

特に攻略と言うほどのものはないが、各ルートの開始後にセーブしておくこと。
その理由は、再プレイの際に聖夜子に関するシーンが一部見られなくなってしまうから。
いざとなれば再インストールすればいい。



簡易表:


本作は、以下の左三つのルートにおいて、物語として二つのラインを並行して走らせている。
つまり、聖夜子と祥子の物語は、陽菜×文、文×倫、倫×陽菜ルートにおいても描かれる。
それらを総合して、聖夜子×祥子ルートとして扱う。

脚本 (what to tell 何を描くか)


陽菜×文 文×倫 倫×陽菜 聖夜子×祥子
物語 C C C C+
構成 C C C C+


(※一.物語とは、世界の変革、個人の心境変化、それらの変化量。描出すべき事象の過不足の無さ)

(※二.構成とは、物語を描く為の適切な場面の配置、伏線、起伏、溜め、ミスリード、小道具の使用等)

再プレイ後に、これらはプラスとマイナスに一段階ずつ変更するかも知れない。見落としがいくつかあるだろう為。

演出 (how to show どう描くか)


陽菜×文 文×倫 倫×陽菜 聖夜子×祥子
脚本的 B- B- B- B-
作画的 B- B- B- B
音響的 B- B- B- B-
スクリプト B B B B+


(※一.脚本的演出とは、見せ場を指す。出会い、別れ、愛情、信頼、危機、対決、和解、真実の劇的発露)

(※二.作画的演出とは、印象的な絵。構図、背景、表情、所作、衣装、色、光、象徴、対比、レンズ効果等)
(※三.音響的演出とは、音楽と効果音の使い方。挿入歌は含むが、演技とシステムボイスは含めない)
(※四.スクリプトとは、画面効果を指す。アイキャッチ、ワイプ、暗転、立ち位置や表情の変化等も含む)



◆脚本:
(シナリオ、構成、テキスト、表現)


構成について。

まずはファーストシーンにおいて。

前作のファーストシーンをなぞり、記号的にそれを繰り返し、
そこに一番の大きな変化である四人目をぶつけてくることで、その違いを強調していた。

次に陽菜×倫ルートについて。

始めの方で、同級生に見られて恥ずかしくなった倫が、思わず陽菜を突き飛ばしてしまうシーンがあった。
これと、倫と本条さんのいくつかのやりとりの後で、倫が本条さんの前で陽菜を恋人だと言った場面は構成的に良かった。

また、倫の入寮当時の回想が描かれたことで、変化がより感じられるものとなっていた。
(これはどのルートでも共通の部分だったと思う)

他。

前作の情報を天使が口にすることで、設定を忘れていた読者に対して喚起を促していた。

聖夜子の引くくじが、些細な伏線というか前振りになっていた。ハッピーエンドを迎える際は大吉になっていた。
身体がある云々やマフラー、タバコ、放送室などの小さな伏線があちこちに散りばめられていた。
前作の校内放送も、今作によって意味が与えられることになった。

文×倫、倫×陽菜ルートにおいて、聖夜子×祥子にもスポットライトを当てた上で
大体バッドエンドで終わっている為、スッキリしないという方もいるだろう。
ただし、これには天使が可能性を収束させることのメタ的な意味合いが含まれている為、
ルート構成を一から見直さない限りは、これで正解であると筆者は考える。

違和感を覚えた箇所などについて。

倫と陽菜が、祥子のところに相談に行った際のこと。
少し前のシーンで、聖夜子を泣かせたことを理由に二人は怒っていたはずだが、普通の接し方だった。

同性婚できる国を倫が並べ立てるシーンだが、十分な前振りが無いとおかしく感じられるだろう。
暗記する必要はあるのかと。ただし、前作において陽菜と文に宣誓させた倫が言うという点は良かった。

どうでもいいことだが、なまはげは正直いらないだろう。
他にCGの一枚でも追加した方がプレイヤーには遥かに喜ばれたと思われる。

ギャグについて。

ヒナグリッシュの“ブラッド キャント バトル”など、思わず噴き出してしまうようなギャグが
散りばめられていて数十回は笑わせられたと思う。倫の後方彼女面とかも最高。

倫 「収録現場で散々騒いで盛り上がるのも楽しくて良いんだけど、
わたしくらいの通になると腕組んで半分地蔵になりながら彼女面して参加するんですよ」

倫 「意味深な含み笑いや相槌、目が合った時、控えめに手を振ったり、
オーディエンスでも控えめに手拍子したりするのがポイント」

倫 「今日のわたしは完全に浅生文の彼女だった――」

陽菜 「何言ってんだ、こいつ。殴りたいな」




◇演技:


陽菜が若干声変わりしてるのが気になった。まだ七歳だから仕方ないところか。
という冗談はさておき、今作は物語が描かれたことでシリアスな場面が増え、演技力を発揮する機会があったと思う。

個人的には、甘えるのと甘やかす際のやり取りが、最も本作を象徴しているように思えた。



◆演出:
(スクリプト、画面作り)


まずは前作の改善点について。周知されている通り、きみはねCouplesでは
一作目の『きみはね 〜彼女と彼女の恋する1ヶ月〜』は完全版となっている。

電流が走る演出が追加され、相手の心に触れたことを演出していた。

次に今作について。

満月の演出的な色遣いや、控えめなレンズ効果やフィルターの使用が見られ、品位が上がっていた。
(レンズ効果の使用を好まないものもいるが、筆者としては場面に合わせての利用は好ましい)

祥子が聖夜子を抱き止めるカット、これを記号化して用いることで、
二人の関係が変わり、先へと進んだということが演出されている。

祥子が聖夜子に覆いかぶさるような形のカットでは、一瞬だけ色をほぼ白黒にし、
祥子の目と口が大きく開かれることで、死を感じさせていた。



◇作画:
(キャラクターデザイン、原画、塗り)


前作は十六枚、今作は二十五枚。差分は面倒であるから数えない。

前作のように、胴が短かかったりするような大きな違和感を感じるところは無い。
皆でお風呂に入ってる絵で、文の胸が垂れてしまっているのが残念だった。

陽菜が文を押し倒しているイラストは、気持ち良くパースがかかっている。

陽菜が文にキスするところは、手で顔に触れながらするのが陽菜っぽくて良い。



◆音楽:


追加されたのは三曲のみ。何か思う所があれば後に書くかも知れない。



◇効果音:


前作以上に丁寧に付せられていた。



◆背景:


イベントCG以外では、追加されたのは祥子の部屋と放送室と商店街くらいだろうか。



◇システム:


流石に四人が一緒にいる場面が多いと、フレームは16:9が欲しいところ。

“陽菜「却下ー!!」”
という台詞において、音が割れているのはこちらの環境によるものだろうか。
それとも録音が良くなかった為なのかは判らない。



◆他:


私事だが、<なぜ他のサイトさん方と相互リンクをされたりしないんですか?>と訊かれたら、こう答えたい。
倫の言い方と少し違うが。はい、皆さんもご一緒に。せーのッ……

私、群れるのとか苦手だから!



◇結語:


三人称の語りが主観的である為、今作は割と賛否両論になるだろう。

しかしながら構成は有機的であり、演出も強化され、作品としての品位は向上している。

キャラの魅力が前作以上に引き出されている為、これまで以上に作品に愛着を覚えることだろう。
なにより恋人になってからを描いた百合ゲームは稀有である為、今後も応援していきたい。






☆後記:


倫が文にカニを食べさせてもらったり、眼鏡を拭いてもらったりして甘えまくってるのとか最高でした。
陽菜の「倫、好き好き大好き~!」とかも同じく。

陽菜と文が引き裂かれそうになるところは、本作においてジェンダー的に最も百合っぽさを感じました。
人を疑うことも知らないような無垢な二人、悪気の一切無い文のお父さんの言葉。色々と刺さるものがありました。

聖夜子が以外と肉食系なのは、ライオンが伏線だったのしょうか。
というか肉食というよりは素直なだけ?天然はこわいですね~。
ということで、妄想してみたのがこちらです。ギャグがメインですが。


<状況:聖夜子が祥子を愛しているところに陽菜っち達がやってきた>

陽菜 「へぇ、意外……祥子さんが攻められる方なんだ~とは思った」
祥子 「しくしく」

下着をつけ直し、服を整える祥子。

倫 「今夜は飲みましょう祥子さん」
祥子 「うん……ってあんたはまだダメだろー!」
倫 「ちっ、この流れならイケると思ったんだけどなー」

祥子 「あっ、陽菜っちにはちゃんと粉ミルク用意してあげるからさ」

意外と立ち直りの早い祥子、陽菜をいじることで
いつものペースを取り戻そうとしているのかもしれない。

陽菜 「倫、こいつぶっ飛ばしていい?」
倫 「待て陽菜! 卒業まではガマンしておこう」
祥子 「ひっ!お礼参りされる~」

聖夜子 「そのお礼参りってなんですか?」
文 「あっ、お礼参りっていうのはですね――」

文の言葉をさえぎる祥子。

祥子 「お礼参りっていうのは、お世話になった先生とかにチューして回る日本独自の文化で~」
倫 「まったテキトーなことをふかして……」

聖夜子 「そうなんですか? じゃあ私はあなたにいっぱいキスします!」
祥子 「えっ?! ちょっと聖夜――んっ!」

卒業の部分は聞き流したらしい。

聖夜子 「んっ、ちゅっ……」
祥子 「ん……んぅ……」

唇の間を舌で数回ノックされただけで、聖夜子を招き入れてしまう祥子。
部屋には二人の水音だけが鳴り渡る。そうしてしばらく経った後――

聖夜子 「んはっ……ペロッ……カプッ」
祥子 「はぁっ……んっ……」

舌を引き抜くと、祥子の唇を舐めたり甘噛みする聖夜子。
祥子の反応と同時に色々な感覚を楽しんでいるらしい。

文 「わあぁ」
倫 「ほぉ……」
陽菜 「すごい、耳まで真っ赤……まるでゆで上がったカニみたい」

二人の様子を見守る三人。

倫 「あっ、そうだ良いこと考えた……って、スマホ部屋に置いてきちゃったよ。陽菜、カメラ貸して」
陽菜 「二人を撮るつもり? それならやだ、自分だってされたらイヤでしょ?」
倫 「あ~あ残念、これはインスタ映えするのにな~」

代わりに指でフレームを作り、目でシャッターを切る倫。心のハードディスクに保存しているのだろう。
人間のそれはとても壊れやすいものだけど。

倫 「じゃあ代わりに小説でも書いてみようかな。 タイトルは、『イケ女寮長がベッドで年下彼女に見せた少女の顔』」
倫 「これで決まりですよ」
陽菜 「いかがわしいタイトルをつけるな! ベッドどこから出てきた? それ官能小説じゃないか!」

祥子 「はっ!」
聖夜子 「わわっ」

二人の漫談が耳に入り、何とか意識を取り戻したのか、ライオンを引き剥がす祥子。

祥子 「ちょっとあんた達いつまで見てるつもり!? 大した用じゃないならまた今度にしてよね」
倫 「え~いいじゃないですか、減るもんでもないし。 続きも見せてくださいよ、ちゃんと投げ銭しますから」

祥子 「誰が見せるか!性の商品化イクナイ!!」
倫 「んんんんん~」

ぐずりツッコミだ。

文 「ほらほら二人とも、お部屋に戻りましょう?」
倫・陽菜 「は~い」

文の言うことには素直に従う倫たち。これがお姉さん力の差か。

バタン!

ドアが閉まり、

祥子 「ようやく帰ったか……全くあの子達ときたら」

深く息を吐く祥子。

祥子 「っていうか聖夜子あんた、お礼参りの意味知ってたでしょ?」
聖夜子 「そうですね」

コーヒーを注ぎながら、先の一件について話す祥子。

祥子 「じゃあなんでしたのさ?」
聖夜子 「設定を守れって言ったのはあなたですよ?」

祥子 「だからっていきなり皆の前でキスしなくたってさぁ……」
聖夜子 「それは――」

いくらか逡巡する聖夜子。自分の感じた衝動を少しでも正確に言語化しようとしているのだろう。

聖夜子 「したかったからです!!」
祥子 「ブフゥーーッ!」

思わずコーヒーを吹き出してしまう。

祥子 「あぁッ、やっちゃった……」

幸いマグカップの中身は無事だが、口を伝い落ちたコーヒーが祥子のTシャツを透けさせる。

聖夜子 「これはすぐに洗わないとですねー、シミになっちゃいますから」
祥子 「別に気にしないでいいよ、しょっちゅう絵の具でダメにしてるし」

祥子のシャツに手をかける聖夜子。

祥子 「ってあんた人の話聞いてた?」
聖夜子 「はい!」

祥子 「いい返事だなぁ!あっ、ちょっと待てって聖夜子」
聖夜子 「どうしてですか?」
祥子 「だってこれ、この後絶対にエッチなことするパターンじゃん」

聖夜子の行動がだんだんと読めてくるようになった祥子。

聖夜子 「大丈夫です明日はお休みですし、痛くしませんから。 ふんす!」
祥子 「否定はしないんだな……。 はぁ、お姉さんは腰がもちそうにないよ聖夜子」


……to be continued.





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