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きみはね 彼女と彼女の恋する1ヶ月 感想/レビュー

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◆序文:
(注意点、心得)


まず、本作において大きな欠点は存在しない。

本作は日常系であり、脚本の技巧や卓越した演出等は見当たらないが、
丁寧なスクリプトや効果音は好印象。ギャグも練られていて、読んでいてストレスを感じない。
セリフや雰囲気も良い意味で現代的。
しかし日常物故、物語性はあまり無い。

百合的な面でも、道具を使う事もなく、男性が絡んで来る事も当然い。

日常物の為、三角関係になってギスギスしたりする事もない。
また、三人だからと言って、三人でそういう行為に走ったりはしない。

言わばハートフルな作風。

作画は正面と前斜め以外は不慣れな印象。しかし、塗りと絵柄の方向性は個人的には好み。

全体として見た時、日常系作品としては、確実に良作の部類に含まれる。

以下、ネタバレは
「脚本」項のみ。

個人的にだが、ギャグ以外には脚本に特筆すべき点は無く、

以下のレビューを読んでも得るものはほとんど無いだろう。
念の為に言うが、キャラデ、音楽、背景と、どれも質はそれなりに高い。



◇攻略:


プレイ時間目安:七時間


一週目の攻略は、最初に陽菜固定で、相手を倫と文から選ぶ形。
いずれにせよ三回の選択肢で一方を連続で選んでおけばいい。

エンドを迎えた後、スタートから
始め直す事となる。物語開始にあたって
プロローグを選択するのだが、ここで
倫を選ぶと、倫と文のカップリングが見られる。

文章で説明するより、キャプチャー画像を見るのが手っ取り早い。
以下は、<陽菜×倫>、<陽菜×文>を攻略した後に、“START”から始めた場合。


WS000040.jpg



簡易表:


天使ルートは割愛する。寮長と絡んで、ちょっとした秘密が明かされるのみ。
百合作品において、×の前後関係は重要ではない。

脚本 (what to tell 何を描くか)

  ×陽菜 陽菜×文 文×
物語
D+ D+ D+
構成
D+
D+ D+


(※一.物語とは、世界の変革、個人の心境変化、それらの変化量。描出すべき事象の過不足の無さ)
(※二.構成とは、物語を描く為の適切な場面の配置、伏線起伏、溜め、ミスリード、小道具の使用等)


演出 (how to show どう描くか)

  ×陽菜 陽菜×文 文×
脚本的
C- C- C-
作画的
C
C
C
音響的
B- B- B-
スクリプト
B- B- B-


(※一.脚本的演出とは、見せ場を指す。出会い、別れ、愛情、信頼、危機、対決、和解、真実の劇的発露)
(※二.作画的演出とは、印象的な絵。構図、背景、表情、所作、衣装、色、光、象徴、対比、レンズ効果等)
(※三.音響的演出とは、音楽と効果音の使い方。挿入歌は含むが、演技とシステムボイスは含めない)
(※四.スクリプトとは、画面効果を指す。アイキャッチ、ワイプ、暗転、立ち位置や表情の変化等も含む)



◆脚本:
(シナリオ、構成、テキスト、表現)


各ルートはシーンの差し替え程度。天使ルートは若干哲学的に物語を俯瞰するのみ。
三人称視点で、内面描写は無い。(天使が三人を見守っているという設定)

キャラは四人+(一人?)だが、特にメインの三人はみな魅力的だ。
基本的には、倫がお父さん役、文がお母さん役、
陽菜がペット……じゃなくて子供役。

三人の中で二人が接近し過ぎると、残りの一人が置き去りになるものだが、
どのルートでも一人が二人を祝福する形で丸く収まる。

また相手によって、そういった行為の攻守が逆転するのも良い。

優れたギャグが注目を集める。この短時間に二十回は笑わせられただろうか。
いわゆる“天丼”を使う事が多い。倫がボケて、陽菜が鋭いツッコミを入れるのが基本。
そして文がそれを暖かく見守る。

ネタの引用では伝わらないが、前後の文脈と、演技と演出を含めるとかなり笑える。

・ローキックはやめろ → ミドルキックだ!
・おいジャイア○
・父さんと母さんはする事がある
・一人芝居全般

誤字は一回か二回だけで、かなり少ない。


他所で比較的退屈な箇所が、本作のテキストの代表のように挙げられている為、
特に笑える所を引用しておこう。繰り返すが、演技と演出が実際には加わる為、さらに面白くなる。

状況:
陽菜が自身の誕生日に気付いてもらいたくて、ぐずり出す。

倫 「12月5日ってタイのプミポン国王と同じ誕生日だな」

陽菜 「知らないよ、誰だよ!」

倫 「あ、ごめん。正確にはプーミポンアドゥンラヤデート。ちなみに意味は『大地の力・比類なき権威』だよ」

陽菜
「正確になって余計に分かんなくなったよ! ていうか浅生さん何言いかけて――」

文 「プ、プミポン……ぷぷっ、かわいい」


陽菜 「
プミポンつぼっちゃってるし!」

文 「うふっ、ふふっ、あ、あのですね、その日に……プ、プミポンっ」

陽菜 「あの、プミポンが落ち着いてからでいいよ」

文 「ご、ごめん……なさい……あははっ」

倫 「ねぇヒナポン?」

陽菜 「誰がヒナポンだっ!」

文 「ヒ、ヒナ……ポンっ!ぷっははっ」

火に油。

陽菜 「余計なこと言うな!」

倫 「分かったポン」

文 「あは、あははははっ! い、息がっ! お腹がっ!」

陽菜 「倫っ!」

文 「ふぅ……何とか、落ち着きました」

倫 「大丈夫? フミポン――ぐっ!」

陽菜 「がぁっ!」

文 「あのですね。テストが終わってからお部屋でお誕生日会をしませんか?」

陽菜 「お誕生日会? ほんとにっ!?」

文 「はい。サプライズにしようかとも考えたのですけど、テスト期間と被ってて
あまり凝った準備は出来そうになくって」

陽菜 「ううん、ありがとう! すっごくうれしい!」

文 「よかった。三人でお祝い出来たらいいなって思ってたんです。
緒方さんはいかがですか?」

倫 「浅生さんのご馳走が食べられそうだし参加するよ」

陽菜 「パーティーの主旨は理解してる?」

倫 「期末テストの打ち上げ?」

陽菜 「ここまでの話、ちゃんと聞いてた?」

倫 「誕生日でしょ」

陽菜 「……誰の?」

倫 「プミポ――」

倫 「もちろんヒナポンさんのです」

陽菜 「そのヒナポンって止めろ!」

文 「あはは」

倫 「日も近いことだしクリスマスと同時開催でよくない?」

陽菜 「よくない! あたしはキリストか!」

倫 「さらっと怖いこと言うなぁ」


文 「クリスマスはクリスマスでお祝いしますから」

倫 「やれやれ、イベントが重なると出費がかさむんだよね」

陽菜 「むか。倫の誕生日は祝ってやらないからな!」

文 「ふふ。緒方さんのおふざけですよ。だってお誕生日会の話は緒方さん発なんですから」

陽菜 「ほほう」

倫 「えっとあれは、そういうのやったりする部屋もあるらしいねってたずねただけで、ねぇ?」

文 「ふふ、そうでした、そうでした」

陽菜 「なんだよ、素直じゃないなぁ」

倫 「……うるさいポン」



◇演技:


最初は二名ほど違和感を感じたが、直ぐに気にならなくなった。
具体的には陽菜と寮長。棒読みも無いし、何ら問題は無い。



◆演出:
(スクリプト、画面作り)


立ち絵を細かく調整しているのは好印象。
暗転、ワイプ、シェイク、アイキャッチ的な背景の挿入等、基本を抑えている。

XPか半自作PC故か、音声が重なる際に十秒ほど反応しなくなる。



◇作画:
(キャラクターデザイン、原画
、塗り)


基本CG十五枚、差分六十二枚。
絵柄と塗りはどちらも良い、しかし基礎に若干の不安を感じる。

例えば、CG十枚目(右端中段)において、文の胴があまりに短く、顎も少々長い。
一見して違和感を感じるのはここと、制服(ブレザー)、
寮長の上着のみ。

また、厳しく見ると、口と鼻の位置がいくらか気になる所があった。
しかし、これは個人差を表現しているのかも知れない。

言うまでもなく、デフォルメを考慮した上での指摘である。



◆音楽:


全部で六曲のみ、
一曲当たり二分半。歌は無し。
ギターとピアノの二重奏が一曲、ピアノソロが二曲、クリスマス的なのが一曲。
残り二曲は打ち込みの様で表現しづらい。

何にせよ、曲数は少ないが質は良い。

効果音としての音楽が、BGMに重なるのは良くない。



◇効果音:


擬音が多かっただろうか、ツッコミを入れる際の「バシッ!」という音が活躍していた。
他にも「ポカッ!」「ドゴォ!」「ダンッ!」等、バリエーションが豊富だった。
抱きつく時には「ボォン!」「バッ!」というものも使われていた。

クラッカー、イスを引く音、紙をめくる音、袋のガサ音、ドライヤー、
食器のカチャつき、扉を開ける音(これは五通りほど)等、生活音が丁寧に付せられていた。



◆背景:


枚数は少ないが、質は問題無い。
寮に同居していても、机やベッドのランプ等に個性が出ているのが良い。
ぬいぐるみがベッドにあるだけで、文の少女らしさが出ている。



◇システム:


およそ必要なものは全て揃っている。
次の選択肢まで飛ぶ機能が無いが、ルートは単純な構造の為、問題無し。



◆他:


本作に対する見当違いの批判について論難しておこう。
個人的な感想の範疇を超えていると思われるものが、その対象となる。

では、始めよう。


ある作品の要素が、それ以前の作品に似ているという理由で、
それを槍玉に挙げ、鬼の首を取ったかの様に振舞う事は愚かである。
何故ならこの場合、複数の特定の種が、同じく特定の類に属している事は必然だからである。

つまり、りんごが甘いのはぶどうの真似をした訳ではなく、果物であれば大概が甘いということ。
赤りんごと青りんごであっても事情は同様、りんごは大抵甘いのだから。
術語で言えば、この人物が英雄でこちらがトリックスター、彼が老賢者で彼女が太母だ、
こんなものは見飽きたと言って、後発の作品を詰る(なじる)事は何の意味も成さない。

特に短編作品においては、充分な時間が無い為に、より一層記号化の危険性は大きくなる。
何故なら、選択を重ねる事で、人物の個性が確立されて行くからである。
これは、物語を深く描く事も同様である。更に、日常系というジャンルは一般的に、
物語を描くには適さない媒体である。それが分かっていながら、その点を責め立てるのは、
自らが何を言っているのかまるで理解していないという事を暴露しているのである。

仮に、日常系が物語を描くのに相応しいジャンルであると考えているのなら、
一般的な日常系の意味から乖離している。その場合、“日常系”の独自定義を明示しておくべきだ。
ある要素が、本来的に備わっていないものに対し、備わっているべきだとするのは、滑稽である。
例えば、食事処に行き、風呂に入りたいと言い、何故風呂が無いのかと質すようなものだ。


続けて、諸々の宣伝文句を真に受けていたとしたら、判断力に問題がある事になる。
その理由は、多義的に語られたものの解釈は、多くの場合に個人差が生じるからである。
例えば“赤い”と一口に言っても、紅色と朱色では大きく異なる様に。
こうした当たり屋的難癖を回避するには、これからは全てのゲーム作品の公式サイトに、
“購入者様のご期待に必ずしも沿う訳ではありません”との但し書きが必要となるだろう。

実に陳腐な表現だが、“全米が泣いた”というキャッチフレーズに対して、
一人でも泣かない者がいたからと言って、実際に訴訟するのは冗談を解さない人と言えよう。
こうした修辞技法の使用に対し、事実と異なると言って訴えるのは無粋である。

また日常系作品で、深い哲学的物理学的なコンセプトを追及する事も、一般的ではなく、
そうした場合、本作の目指す作風から大きく逸脱する事になる。

演出と演技を無視して、地の文だけを引き合いに出して掛け合いを
つまらぬと断罪する事も考量不足である。
(しかし私的に見ても、その引用箇所は特に笑える所ではなかった。
加えて、当然ではあるが、面白いかどうかは個人の好みではある)

そして、百合ゲームについて論評した結論が、別のヘテロゲームへの誘導であるのは、
どういった意図の下に筋違いの主張をしたのかが、明確に伝わって来るものである。

以上を以って、本作に降り掛かった火の粉は払われた。




◇結語:


ギャグの面白さが突出しているが、他は全体的に手堅い印象。
百合好きのみならず、幅広い層に受け容れられるだろう。





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