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FLOWERS 春篇 感想/レビュー

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◆序文:
(注意点、心得)


推理パートの拙劣さと、主人公への感情移入(自己投影)を阻む諸々の要素が、本作における最大の欠点。

ある事件の対応が常識外れの的外れ、その動機の告白についても余りに唐突
回想の使い所に工夫が無いものが多数。訳の分からない選択肢の数々、
心の中でひっくり返したちゃぶ台の数は数え切れない程だ。

およそ完璧なルートが一つでもあれば、そこに着目して加点方式を採用するが、
本作は第五章の顛末を中心に、致命的な傷を負うことになった。
その為、総合的に見れば高く評価する
ことは出来ない。

だが美麗な絵や空気感のある背景、洗練された曲の数々、魅力的な人物も多数と、
これらの要素単体としては極めて高い水準にある
ことは確かだ。

以下、「脚本」項にてネタバレあり。



◇攻略:


プレイ時間目安:二十時間


基本的には、クイックセーブとクイックロードを使って総当たりすれば済む。

緑ならマユリ、黄色なら立花の好感度が上がる。

立花エンドは、マユリエンドを迎える
ことで解放される。

アミティエ試験は、マユリなら全て“はい”、立花なら“いいえ”を選べば良い。

推理パートは、第二・三・五・七章においてのみ。

第二章:車椅子、嵐が丘、エリカ
第三章:イタリア、17
第五章:失踪、炭酸水、カーテン、苺
第七章:事故、温室、符丁、鞄

好感度の調整について。

完答
 → マユリエンド (追加シーンあり)
少しミス → マユリエンド
大量にミス → バッドエンド
全てミス → 立花エンド

推理パートはミスがあれば、それぞれの章に固有のバッドエンドを迎える。



簡易表:


各ルートは、エンド以外はシーンの差し替え程度に過ぎない。

第五章の顛末を考慮すれば、物語と構成のランクは以下より二つは落ちる。

脚本 (what to tell 何を描くか)

  マユリ
立花
物語
B+
B-
構成
B
C+


(※一.物語とは、世界の変革、個人の心境変化、それらの変化量。描出すべき事象の過不足の無さ)
(※二.構成とは、物語を描く為の適切な場面の配置、伏線起伏、溜め、ミスリード、小道具の使用等)


演出 (how to show どう描くか)

  マユリ 立花
脚本的
A-
B+
作画的
A+
B+
音響的
A
B-
スクリプト
B+ B-


(※一.脚本的演出とは、見せ場を指す。出会い、別れ、愛情、信頼、危機、対決、和解、真実の劇的発露)
(※二.作画的演出とは、印象的な絵。構図、背景、表情、所作、衣装、色、光、象徴、対比、レンズ効果等)
(※三.音響的演出とは、音楽と効果音の使い方。挿入歌は含むが、演技とシステムボイスは含めない)
(※四.スクリプトとは、画面効果を指す。アイキャッチ、ワイプ、暗転、立ち位置や表情の変化等も含む)




◆脚本:
(シナリオ、構成、テキスト、表現)


推理パートについては下部の「他」項にて扱う。

シナリオにおける要素としては、過去の百合作品を良い形で踏襲したりオマージュしている。

意外にもギャグが良く、合計にして十回くらいは腹を抱える
ことになった。

下着をハンカチに間違うくだりは、有名な白目の演出と合せ、心地良い笑いを提供してくれた。
“作家の強さ”を語り出そうとする銀髪の江戸っ子美人、
“コーカサスオオカブト”や“ニート”、“入会金無料”、自己紹介で噛んだりと、中々だった。

さて、構成については、まずテンポが良い
ことが挙げられる。
しかし半ばダイジェストの様になっていて感情移入を損なう。小説なら良く見られる形式か。
伏線が張られ、充分に回収されている。“誤解を招くような
はしない方がいい”の真意など。

頻繁に起こる過去についての独白、各章の合間にも詩の様なそれが挿入される。
後者は未来からの視点になっていて、時には生涯を振り返る
ことすらあった。
これらは確実にプレイヤーと主人公の間(投影)を引き裂くものである。私小説的な趣きを呈している。

前者が単なる過去ではなくて、いわゆる心的外傷である為に、
一般的なプレイヤーと主人公の乖離が大きい。
つまり、トラウマを独白する度に、<私(主人公)とあなた(プレイヤー)は別人です>
と言われている気分になり、作品世界に対して疎外感を味う
ことになる。

バッドエンドはそれまでの流れに注力されておらず、シチュエーションにも
見所が皆無な為、単なるゲームオーバーと呼ばれるのが相応しい。

回想の使い方も今一つだ。単純にリズム感を与えることくらいにしか機能していない。
特に理由も無く、先程はこういう
ことがあって今に至る、というのが乱発されていた。

それと、推理パートの為に、絵画は伏線として背景に入れておいた方が良かったと思われる。


次に拙劣な脚本について。

狂言失踪の動機は、事前に何らの示唆(前振り)も無い。
まだ十五才ということもあり、
好意的に解釈すれば、いわゆる反抗期として捉えることも可能かも知れない。
年頃の娘だ、刺激の無い生活に飽きるのは納得出来るだろう。情状酌量の余地はある。

中学生くらいの年齢では、まだ小学生に毛が生えた様なものだ。色んな意味で。

しかし構成としては、伏線を入れる
ことも無かった為、その豹変ぶりには目と耳を疑った。
彼女が“「こんなものは牢獄と変わらない」”などと突然喚き出し、他者に同意を求め、
知らん顔で嘯く(うそぶく)のは不快を通り越して呆れ果てる程だ。

それに学院を辞めたいのであれば、退学手続きを行えば済む
ことである。
数日間に渡る潜伏(入れ替わり)生活をしてまで、物資搬入用の車に潜んで抜け出そうなどというのは、
言い方は良くないが、頭のネジが飛んでいると言えよう。

跡を濁さない為に、七不思議を装置として用いたいのは分かるが、実演する必要は無い。
悪戯だとしても済ませられる筈が無い。一体どれだけ心配したと思って……いやそれは置いておこう。

更に、“既に家元に帰っている
かも知れない”などと悠長に言っていることもあったが、
そうであれば学院に対して親が連絡を入れるのは当然の
ことだ。帰還を待つにしても、一日が限界だろう。
友人を思うのであれば、たとえ憎まれる
になろうとも捜索願いを出すべきだ。

数日間、学院側が生徒の所在を確認しないのも大問題だ。
比較的裕福な娘が集まるこの学院において、特定の生徒が数日間もの間
顔を見せなければ、学院側は血眼になって捜すだろう。信用を落とし、学校経営が破綻せぬように。

また双子は、これだけ周囲を心配させておきながら、謝るだけで済むなど虫が良過ぎる。

事件以降、なんらの反省も見られない
ことも問題だ。
個人的に、彼女は妹と合せてこの作品で一番好きだったが、
上述の件にて最早軽蔑の対象に過ぎなくなった。繰り返し言うが、罪を贖う(あがなう)べきだ。

面談における教諭の質問も酷いものだった、天然だから他意や悪気は無いだろうし、
学校で指定されていたのかも知れないが、“二人の内どちらと仲が良いか”と尋ねるのは、余りにも残酷だ。
無論、その時はいずれ来るとしても、突然言われては悩む
ことも出来ないだろう。

続けて、設定について。

双子をアミティエとして組ませるのは、人間関係の構築に貢献しない。
残った一人は最初から疎外される
ことになる。

主人公が教諭の身体に義母を想起するとあったが、そこにも違和感を覚えた。
教諭の豊かな女性的である体付きと、義母のそれは違って見える。
いかにも神経質そうな痩躯と、豊満な肉体は相反する。義母は脱ぐと凄いタイプなのだろうか。

菜の花畑についてだが、主人公が教諭に以前には見頃ではないと言ったにも関わらず、
後日に別の者にそれを指摘されるというのは
矛盾している。

カトリックにおける司祭(神父は敬称)の妻帯については、例外があるそうだ。
プロテスタントの牧師がカトリックに転向する道もあって、世界で百人程度おられるらしい。

人物の年齢が十四でありながら一年生というのは、海外の学校制に近いらしい。
イタリアでは高校に相当する学校は十四才から十九才までの五年制とある。
しかし外国は九月入学が多い為、詳細は不明。

以下はテキストについて。

文学でしか見る事のない様な言い回しを多用するのは、人物の性格と作風には合っているが、
ADVゲームという媒体には合わない。文学を嗜む者でなければ、幾度となく辞書が必要となるだろう。

異体字の域を出ない“佳い”の使い方は、この作品の象徴と言える程に多用されている。
こうした“佳い”の使い方は個人的には好いものではなく、佳い折に使う事が善い用法だろう。


個人的にだが、“同性愛者”という表現を聞くと現実に引き戻される。


テキストのミスを挙げておこう。ライターより入力したスクリプターに責任だろうか。

“近視感” → 既視感 (入力ミス、あるいは誤用)
“認めるざる” → 認めざる (入力ミス)
“尽きっきり” → 付きっきり (変換ミス)

“準備運動をしているのが見て取れた”
このシーンにおいて“見て取る”という表現は過剰だ、視認すれば誰でも分かり、
見破るという程の意味は相応しくない。
ただし大袈裟なだけで、意味が通らない程ではない。

常用外の難読漢字が散見され、極めて読み難い。おそらくは漢検準一級レベルだろう。
読み仮名を振る対象もまちまちで、簡単な漢字に振る一方で難しいものには振らない事も見られた。

“鳶色”と書く場合もあれば、“とび色”とする場合もあり、統一感に欠ける。

良い表現として、“夜の化粧”というのは気が利いている。
この作品の繊細な女性主人公には、実に相応しい。



◇演技:


基本的に抑えめの演技が作風に合っている。

一回だけだったが、驚きの声を左右チャンネルに分けるのは良い仕事。臨場感がある。
双子はそれぞれ左右の一方に音を振り分け、それぞれ左右の一方に定位。
主人公は左右に振る事で合成され、中央に音像が定位していた。

車椅子の娘による、他キャラの物真似は面白く笑えた。
双子の愛らしさは、良い意味で肩の力を抜かせてくれる。
銀髪の江戸っ子は男性的な感じだが、時折覗かせる女の子らしさが良い。

か細く声を出して照れるのは大変可愛らしい。



◆演出:
(スクリプト、画面作り)


まずファーストシーン(セカンドカット、鳶色髪の娘と桜の木の下)
“憧れ”を暗喩する為に、下から上に向かってから全身を写した。
これによってプレイヤーは主人公の視点を共有する事が出来た。

個別CGが表示されている時、テキストボックス内左部において、
顔絵を用いて表情の変化を見せるのは中々に良い。

立ち絵において、表情を二回連続で変化させるのも良かった。

テキストの縦表示で、視点(人物)変更を行ったのも分かり易くて良い演出。

転倒時にシェイク(画面を揺らす)させ、臨場感が増している。

ディゾルブ(透明に溶け合う様な画面転換)も丁寧で、
アイキャッチのタイミングや用法も理に適っている。
視点(人物)変更の際には、その人物の線画を挿入していて分かり易い。

回想シーンの画調が、一部そのまま(現在のまま)。またこれは妄想シーンにおいても同様だった。
しかし、一瞬だけの回想や連続したそれ等、工夫も見られた。
その際、声にエコーをかける事もあったのが良かった。

表情を見せる為か、マンガの吹き出しの様なものがあったが、これは無くても良かっただろう。
プレイヤーの視点が強制される事で疲労につながるというが、その理由である。



◇作画:
(キャラクターデザイン、原画、
塗り)


萌え分控え目ではあるが、最高の絵だ。視ているだけで幸福な気持ちになる。
隅々までこだわりが感じられ、まるで隙が見当たらない。

金髪の先輩が付けている髪飾りも、仕上げが細かく好印象。

御身脚としか言い様がない程に美しい、清潔で繊細で洗練された脚は、欧州のワイン造りにおいて、
なぜ無垢な少女だけが葡萄を踏む事が許されているのかが解かる程だ。

二重(ふたえ)の線や影付け、目の描き込みやまつ毛も完璧と言って良い。

身体の描き分けも良い。少女の繊細な身体つきも白鳥の様に美しいが、
教諭の成熟した肉付きの良さもまた乙なものがある。

絵画の前で手鏡を手にした時、手を伸ばして鏡を体から引き離し、
体を竦めるという所作は、恐怖感が出ていて良かった。
またこの時、唇に指を当てている事も不安を描いていた。

理想の図書室に出会い、目を輝かせる主人公。
周囲が湾曲した広角レンズ的な作画は実にファンタジックだ。

手を繋ぐ立ち絵も良い。

モブ(一般キャラクター)まで丁寧に描くあたり、持て余す程の余裕を感じる。

唯一強い違和感を覚えたのは、ベッドにおける主人公の右小指があまりに長い事。
これは角度によるパースなどではなく、単なるミスと思われる。

デフォルメの範囲内かも知れないが、小指球筋(小指付け根の下)がふくらんでいて、
母指球筋(親指付け根下のふくらみ)の様になっていた。
つまり、小指側にも生命線の様な物が生じていたという
こと

これは立ち絵において、おさげ髪の娘が左手を頬に寄せた際に見られる。

また彼女がベッドで眠っている際、耳の位置に僅かではあるが違和感を覚えた。

どの娘も立ち絵を中心に、実年齢よりもいくらか年上に見える。

デフォルメが小さく現実に引き戻される絵だったが、好きな絵柄の一つとなった。



◆音楽:


端的に言って最高の水準に位置している。挿入歌についても、演出と合せて実に劇的だった。

「アングレカム」の、透き通るピアノ、明るいギター、瑞々しいヴァイオリン、
乾いた小気味良いパーカッション。まさに本作を代表する名曲だ。

マユリの歌う「Tota pulchra es Maria」は、演出と併せて実に印象的なシーンだった。
オリジナル曲だったら、尚の事良かっただろう。

曲の使い所に違和感を覚えた箇所は一ヶ所。
金髪の先輩といわゆるトラウマの相談をしている時、明るい日常的なBGMを用いたのは残念。



◇効果音:


群衆の声が入っているのは臨場感があって良い。
足音を単独、複数、歩きと走りで使い分けているのも丁寧だ。

食器どうしのカチャつき、湯船の水音、油のはねる音、ハンバーグの焼ける音、
心音、雨音、鐘の音、封筒を開く音等、丁寧に効果音が付せられていた。

腹の虫については、もっと上品か可愛らしいものにして頂きたい。
しかしあれはあれで逆に可愛いと言えるのかも知れない。



◆背景:


淡い空気感のある外の風景がまず良い。
室内も聖堂を中心に質が高く、視ていて飽きない。

東屋の背景は、自衛艦旗(旭日旗の中心をずらしたもの)
に見られる様な構図で大変美しい。(円から数本の直線が伸びる様な形)

双子の部屋におけるカエルの小物等、寮でありながら部屋を使い回さないのも良い。
蔵書も別の物になっているし、一人部屋もある。

お茶会のケーキを見せる際、背景の玉ボケが実に綺麗だった。



◇システム:


必要な物は全て揃っていると思われるが、
システムやバックログへの移行において少々時間がかかる。

XPだからか、ボイスが入る際に時たま、最初の発音において音量がやたらと大きくなる。
しかしこれはサポート外である為、批判する権利は無い。



◆他:


推理はプレイヤーと共有するのではなく、主人公が概ね頭の中で行ってカタを付ける形。
これもまたプレイヤーの投影としての主人公は機能せず、傍観者たる
ことを強いられる。

第七章の推理においてまず言いたいのは、花壇の煉瓦に何らかの伏線が必要だろうという
こと
次に赤土の場所だが、学内で林檎を栽培しているなら、先に言っておくべきだ。
食べ物を栽培しているとは聞いていたが、無数にある植物と赤土を結び付けるのは至難だ。
(加えて、赤土が特定の植物の栽培に適する
ことは、常識とは言い難い)

それと“桜”のダイイングメッセージについて。
(もちろん死んではいないが)
遠回しな言い方をしたのに理由が無いのは何故か。
頭を打っただけなら、“転んだ”とでも言えば充分だ。これにも違和感を覚えた。

しかし、スポーツタオルの件は、サッカーでミスリードを誘っていて上手かった。

第五章の検証も酷いものだった。炭酸水のくだりがそれだ。
それと、部屋のセッティングが前日になされたと主人公が見破るのは、
事前に何らの示唆(伏線、手掛かり)も無く、プレイヤーには見えない為フェアではない。

さて、検証について。飲み物であれば、普通冷やしてあると考えられよう。
冷やしていない場合についても後述する。

まずコップの下に敷き物があるとは言え、結露が水滴となりコップ自体に痕を残すだろう。
また吸水と蒸発に伴い、敷き物にもなんらかの痕が残る。(自然乾燥の髪の様なもの)
おそらく他にも考えられるだろうが、これだけでも充分にアリバイは崩れる。
続けて、冷やしていない場合についてである。
水は常温でも気化する、その為、一晩も置けばコップに水位差を示す痕が残る。
特に、炭酸の泡の痕がクッキリと残っているはずだ。
仮にそれを拭き取ったのであれば、繊維が付着する事もあるだろう。

ただし塩を使うのに際し、伏線を入れたのは良い。

第二章の図書紛失事件においては、本の表題に名を示唆するものが無い為、解答は極めて困難だ。

それと、塩か七味かの選択は、鳶色髪と仲が良い方を考えれば判る。
呼び捨てが親しみを表している、と仮定すればではあるが。

話変わってパッケージについて、
量より質を採る姿勢には敬意を表したい。
販売に関しても、店舗特典商法に頼らない姿勢に好感が持てる。




◇結語:


稚拙な推理要素と狂言さえなければ、お薦め度は三段は上だった。

繰り返すが私的には、一つであれ完璧に近いルートがあれば加点方式で評価するのだが、
本作では上記の要素を中心に破綻が見られた為、奮わない結果となった。

画集や音楽集として楽しむなら至高の作品。
脚本は雰囲気を感じ取る程度に流し読みすればいいだろう。

残り三作において脚本と推理の粗が見直されているかどうか、今後とも目が離せない。

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