
外伝、ノーマルエンド、バッドエンド、ミニゲームの一部が未プレイ。
これらを攻略後に修正する事とする。アカイイトのレビューも後に行った。
◆序文:
(注意点、心得)
本作最大の欠点は、蘊蓄(うんちく)の過剰さとシナリオ構成にある。
物語と蘊蓄は密接に関わっている為、聞き流すことも出来ない。
蘊蓄、蘊蓄、蘊蓄、食事、蘊蓄、物語、蘊蓄、食事、蘊蓄、蘊蓄……。
全体の七割は蘊蓄だっただろうか、物語部分は設定とシチュエーションが良いだけ。
“現在(いま)”を描く気が無く、大部分が過去と設定と歴史と蘊蓄に費やされる。
だが辞典を一切読まずに理解出来る方は、蘊蓄量は三割程度に抑えられるだろう。
おそらく本作は、映像作品好きにとっては赤点で、
読み物好きにはほぼ満点で、その評価を二分する事となろう。
(両方が好きな場合は、その程度によって中間点を前後するだろう)
設定と世界観の作り込みは素晴らしいが、それを語る際にまるでプレイヤーを見ていない。
ついてこられる者だけついてこいという姿勢は、ある意味で尊敬に値する。
だが残念なことに、筆者にはついて行くことが出来なかった。
非常に優れている演出だが、作画は使い回しが極めて多く、終盤の音響演出も
同じものを使い回している為、ルートも二人分程度を終えると飽きてくる。
しかし、作画以外は様式美と見なすことは可能だろう。
人物は魅力的で、蘊蓄無しなら日常会話も面白い方。
百合としても物語としても中途半端ではあるが、人物の設定を覚えて、
見せ場となるシーンだけを抽出すると、かなりのものに見えるだろう。
◇攻略:
プレイ時間目安:六十時間
http://irorin.kokage.cc/csgame/gamek/aoishirok.html
プレイする上で度々お世話になりました、この場にて感謝致します。
簡易表:
(E-からA+まで)
概ねグッドエンドを基準に評価。実際にそうであるとはいえ、
ナミルートを他より低く評価せねばならないのが実に心苦しい。
グランドルートは叙事的な面が重視され、その他は叙情的な面が押し出されている。
脚本 (what to tell 何を描くか)
グランド |
保美 |
汀 |
カヤ |
コハク |
ナミ |
|
物語 |
D+ | C | C | C | C+ | D+ |
構成 |
D+ | C+ | C+ | C+ | C+ | D+ |
(※一.物語とは、世界の変革、個人の心境変化、それらの変化量。描出すべき事象の過不足の無さ)
(※二.構成とは、物語を描く為の適切な場面の配置、伏線、起伏、溜め、ミスリード、小道具の使用等)
以下にある汀ルートの脚本的演出は、大部分がカヤによるもの。
演出 (how to show どう描くか)
グランド | 保美 | 汀 | カヤ | コハク | ナミ | |
脚本的 |
B- | A- | A+ | A- | B | B- |
作画的 |
B+ | A- | A | A- | A- | B+ |
音響的 |
A+ | A+ | A+ |
A+ | A+ | B+ |
スクリプト |
A+ | A+ | A+ | A+ | A+ | A+ |
(※一.脚本的演出とは、見せ場を指す。出会い、別れ、愛情、信頼、危機、対決、和解、真実の劇的発露)
(※二.作画的演出とは、印象的な絵。構図、背景、表情、所作、衣装、色、光、象徴、対比、レンズ効果等)
(※三.音響的演出とは、音楽と効果音の使い方。挿入歌は含むが、演技とシステムボイスは含めない)
(※四.スクリプトとは、画面効果を指す。アイキャッチ、ワイプ、暗転、立ち位置や表情の変化等も含む)
◆脚本:
(シナリオ、構成、テキスト、表現)
本作の作風に当てられたのか、少し回りくどい言い方をしてみよう。
この程度でうんざりする様なら、本作をプレイする事はおよそ不可能だ。
以下の後に、いつも通りの書き方でレビューしていく事とする。真面目なレビューはこの辺りから。
蘊蓄を辞書で読むイメージが伝わる様に、少々模倣をした。
実際は、以下ほどに脈絡が無い訳ではなく、もう少し関連性のあるものに言及される。
回りくどい感じと、いくらか悦に浸っている様子が多少は解かるだろう。
指数関数的なシナリオ構成、初めは緩やかだが終わりに近付くと一気に急上昇する。
ちなみにこの場合の“初め”というのは、底が正数かつゼロよりも大きい数で、負の乗数から始まる場合。
辞典 <指数関数> (※ゲーム同様に、一行を約十七文字とした)
指数関数と言えば化学や物理において
も重要な役割を担うが、数学と言えば
幾何学も重要である。かの哲学者プラ
トンが“幾何学に通ぜざるもの、この
門を入るを許さず”という言葉を残し
た事は有名である。
現代の感覚で言えば、幾何学が哲学に
含まれるというのは、ちょっと意外で
は無かろうか?
幾何学の祖は“ユークリッド”であり、
ギリシア読みでは“エウクレイデス”
であるが、かの幾何学者と同名の者に
メガラの“エウクレイデス”という人物が
いる。
彼はソクラテスの旧い弟子であるが、
ソクラテスにとって弟子という者はお
らず、弟子を友人と見なしていたとい
う。
日本では有名な哲学者のニーチェは、
ソクラテス以前の時代に憧れを抱いて
いた様だが、実は彼は西洋においての
評価は芳しくないと言われている。その
真偽は推して知るべしかな。
こんな風に言えば専門家の方からお叱
りを受けるだろうか。
ソ、ソ、ソクラテスかプラトンか~♪
ニ、ニ、ニーチェかサルトルか~♪
長い場合にはこれの三倍くらい文章量で、民俗学や歴史を二転三転。
逸話に神話、果ては豚肉の解説まで始め出す始末。
しかし、豚は意外に体脂肪が少なく、10%ほどしかないという豆知識は少しだけ興味を引かれた。
それと昔のサンタクロースが煙突に金貨を投げ入れたという話の後で、
“現金最高!”等と述べ、笑える所もあるのだが、そんなのは全体の1%にも満たない。
涙を呑んでも必要な情報だけに限るべきであった。
あるいは資料集の付録としてでも収録すれば、良い落とし所となったであろう。
そういえば、ジークフリートやユニコーンを彷彿させるくだりは辞書に載らなかったが、
最低限それくらいは知っていないと困るという事だろうか。
閑話休題。
まずは構成について。
シナリオ構成に問題あり。誰かれ構わず場所問わず蘊蓄(うんちく)を延々と
語り出す不自然さ。過去を振り返るばかりで、“今”を描こうとしない。
設定とシチュエーションがほとんど全てで、後は口を動かしてばかりだ。
種々の演出はほぼ完璧な為、一時的には気分が高揚するのだが、
プレイし終わった後に、胸の奥にはほとんど何も残らなかった。
伏線は十分に配し回収され、終盤に速足で駆け上がる。
“幽霊”や“椿”、“隻眼の陰陽師”等、ミスリードも十分だった。
終盤までは起伏に乏しい事と、全体的に時間が足りない事が難点だ。限られた時間が
蘊蓄に捧げられたのが問題で、また五日間という設定も物語を描くには難しかろう。
伏線を張る時間と、物語を描く時間の割合が逆転している。
乱暴なまとめ方ではあるが、大体のルートが以下の様な形で決着する。
知らない人が出て来て会話を始める、その少し前に現われた人と戦いだす。
何故か先の人が味方になってくれて、状況が好転する。感動的な雰囲気で終わりを迎える。
テキストについて。
膨大な量の文学や小説を読み込んでいるのが伝わって来る。
雰囲気を出すのも実に上手かった、言葉自体が演出になっている。
設定や知識も含めて、その学の高さが伺える。
作風に合ってはいるが、難読漢字があまりにも多い。辞書が数百回は必要になる。
漢検なら準一級レベルだろうか、固有名詞や読み方まで考慮すると、更にその数を増す。
入力ミスかも知れないが、“科学的エネルギー”ではなく、“化学エネルギー”だろう。
細かい事だが、空気中における酸素の組成(成分)は、
“20%”ではなく“約21%”である。とは言え、端数を切っただけか。
誤字脱字は辞書の中に数回あっただけだろうか、分量に比して極めて少ない。
人物について。
やはり根方宗次、そして夏姉さん。この二人の守るべきや救うべきといった想いが、何より魅力的だった。
重ねて言うが、汀ルートの脚本的演出は、特に夏姉さんの在り方を考慮したもの。
◇演技:
最も印象に残ったのは根方宗次。若干時代がかった低く安定した迷いの無い渋い声。
声無き声を表現するナミ、大袈裟な感情表現が心地良い百子。
カヤの一本気で全てを貫く決意と、内に秘めた優しさ。梢子の良く通る声も良い。
物語があまり描かれない為、声優の技量がそれを演出しなければならない所だが、
どの方もその域に届いている。実に良い仕事だった。
特に宗次とカヤは最高だった、何度も聴き直したい程。
◆演出:
(スクリプト、画面作り)
日常シーンにおいては、多少過剰な部分があるものの、漫画的な絵柄には合っている。
全体として見れば、ほぼ満点と言えよう。
使い所や回数は少々過剰だが、回想や曖昧な記憶の演出も手が込んでいる。
テキストと併せて、伏線にも近い効能も見られた。
涙でぼやける視界、風に揺れる視野、通常のカメラワーク(パン・ティルト・ズーム)も多い。
思考している時に画面をモノクロにするのは、自己に没入している感じが出ている。
不確かな記憶が色を取り戻す演出も上手い。水(海)に喩えた記憶もその一つ。
立ち絵においては、一貫してPOV(主観)視点、つまり主人公の立ち絵が無い。
これは主人公に対する自己投影を促してくれる。
しかし百合としては、ヒロインと映っていて欲しいと思う所もある。意見が分かれよう。
ロングショットで捉えた絵が印象的だった。逆光においてシルエットが浮き上がり、
ある儀式の一幕が眼に焼き付いた。
主人公が他の娘と仲良くしていると、あるヒロインがジト目で妬いてくれるのが可愛らしい。
スクリプトの組合せは、効果音と併せて気が利いている箇所が多い。
以上までに挙げた箇所の数倍くらいの種類、良いものが見られた。
◇作画:
(キャラクターデザイン、原画、塗り)
漫画に近い仕上げ。線が太く、若干ベタ塗り気味。
違和感を感じる箇所はほとんど無く、非常に安定している。良い絵だ。
比較的古い作品ではあるが、目のハイライトには縁取りが見られた。
◆音楽:
伝奇の雰囲気を演出するのに、大いに貢献していた。どの曲も質が高く量もある。
挿入歌の使い所も良い、エンディングに繋ぐのも定石通り。
中古でさえ、サウンドトラックが五倍から十倍に高騰していて手が出せない。
再販を願うばかりだ、予約を募ってみたらどうだろうか。
◇効果音:
アナログテレビの旧いスピーカーや、電話の周波数帯域が適切だった。
(通常、電話は3000Hz以上がカットされて、くぐもって聞こえる)
足音は十種類はあっただろうか、道路、階段、山道、海辺、踏み石、洞窟、森。
それらに加えて歩く、走る、着地する等、結構な数に昇るだろう。細かくて良い仕事だ。
箒(ほうき)や蝉(せみ)、島鳴き、葉のガサつき、水の跳ねる音、バスに自動車、
枚挙に暇が無く、数えるのを途中でやめてしまったが、非常に丁寧だった。
◆背景:
J.C.STAFFが担当しているだけあって、質も量も問題無し。
キャラ絵に合っていて雰囲気を損なわない。
◇システム:
インターフェイスタブを極限まで絞っているのが好印象。(僅か四つ!)
逐一、“スキップはどこかな?”等と探す手間が掛からない。
必要な物は全て揃っている、何も問題は無い。
システムサウンドもまた、世界観の演出を助けていた。
◆他:
セーブタイトルで笑いを取りに来る姿勢は良い。“電話に出れんわ”等。
◇結語:
構成と蘊蓄さえ見直せば、名作の域に届いただろう。真に惜しい作品であった。
とりあえず、百子に仙台牛(国産A5ランク)のヒレステーキを食べさせてあげたい。
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