前書き:
倫の誕生日を祝う為に書いてみました。
それと、「きみはね」の続編が出ますようにとの願いを込めて。
状況:
ホワイトデーが迫り、文は実家を手伝いに戻っている。
バレンタインデーほど忙しくはない為、二人は手伝いに行かずお留守番中。
本文:
倫 「さすがは浅生さん、このリボンも可愛いなぁ」
何かに使えそうだからと、ケーキの箱を包んでいたリボンをポケットにしまう倫。
陽菜 「浅生さんのケーキおいしかったね~」
倫 「ん、そうだね。流石はケーキ屋の看板娘。 ウチに嫁に来てくれないかな」
陽菜 「えっ……」
あっ……
倫 「それなら、毎日好きなだけ食べられるのにな~」
陽菜のさみしげな表情に気づかず続ける倫。
倫 「でもそれだとダイエットするハメになる?
ならその時は浅生さんと一緒に夜の運動会を――」
陽菜 「だめーっ!!」
陽菜が涙目になりながら、
倫 「うわっ陽菜?! えっなになにどうしたの?」
陽菜 「あたしが倫のお嫁さんになるのーーっ!!」
倫に抱きつく。
倫 「いや、それは前にも話したじゃん。
わたしの幸せ家族計画はマイホーム一戸建てに
浅生さんを嫁にそして陽菜はペットに、ってさ」
陽菜 「んんんんんっ!」
納得いかない様子。
倫 「グズられてもな~。 陽菜がお嫁さんだと庭の犬小屋が無駄になっちゃうし」
陽菜 「……じゃあそっちもあたしが使う」
倫 「えっ?」
陽菜 「あたしが倫のお嫁さんでペットなの!!」
倫 「――なにそれヤバい」
倫 「まずは結婚式、穢れなき純白のウェディングドレスの下で
情欲にまみれた恥辱の調教……うん、悪くない」
いいかげん官能小説は捨てよう。子どもの健全な発育に良くない。
陽菜 「??」
こっちの方を見上げる陽菜。やはり勘の鋭い子だ。
倫 「どうした陽菜?」
陽菜 「ううん、なんでもない」
倫 「それで、ちゃんと分かってる? お嫁さんになったら夜の相手だってするんだよ?」
倫 「陽菜ちゃんベイべーにちゃんとお嫁さん役が務まるのかな~」
陽菜 「今のはちょっとイラッときた」
陽菜が蹴りを放とうとすると、
倫 「わー噛まれた指がズキズキとー」
小芝居を打つ倫。
陽菜 「あうぅ、本当にごめんなさい……まだ痛む?」
犬耳が垂れさがっているのが見えた、気がした。
倫 「いや冗談だから! ほらもう全然平気!!」
倫 「あっそうだ、陽菜はわたしに誕生日プレゼントとかないの?」
陽菜の落ち込みようにうろたえる倫、思わず話題をそらす。
陽菜 「えっと、浅生さんと一緒にケーキを作るつもりだったんだけどね。
忙しいのにあたしがいるとかえってジャマになっちゃいそうだから、
別々にプレゼントすることにしたんだけど――」
倫 「陽菜にしては殊勝な心がけだな~」
陽菜 「黙ってろ」
むくれる陽菜。
陽菜 「それでねあたしもプレゼントを考えてたんだけど
倫が気に入りそうな“どてら”ってよく分からなくて」
倫 「なにそのわたしがどてら大好きみたいな設定」
陽菜 「違うの?
だって倫以外にどてら着てる女の子ってあたし見たことないし」
視線を斜め上に向ける陽菜。
倫 「はあ……これはどてら女子を増やさないと色々とよくないわ」
倫 「モデルの仕事でもしてどてらを流行らせるか?」
腕組みをしながら考える倫。
倫 「ふだんは近寄りがたいクールな貴女(あなた)の油断したどてら姿に
思わず彼女もドキドキ!!」
……しないだろうなぁ。
倫 「こうなったらソシャゲーのキャラにでもなって、
今なら事前登録で“どてら倫”もらえる!!
とかやるべきか……?」
ガチャッ!
ドアが開き、
祥子 「話は聞かせてもらったよ。 倫がもらえるってホント?」
祥子が顔を出す。
陽菜 「うわっ、わいて出た!」
祥子 「え~ちょっと陽菜っちひどくない?」
倫 「全然ひどくないですよ」
倫 「それにわたしは誰のものでもないから――」
遠くを見ながら手の甲で髪を払う倫。
陽菜 「……かっこいい」
陽菜 「ねぇ倫、今のもっかいやって!」
目を輝かせる陽菜。
祥子 「え~っ、今のかっこよかった?
わりと黒歴史に残りそうな瞬間だったと思うんだけど」
倫 「えっ? 今なにかしてたわたし?」
祥子 「って倫、それじゃあヤレヤレ系主人公じゃん」
倫 「はっ!小説、その手があったか……!」
そのとき倫に電流走る……ッ!
倫 「異世界に行ってどてらで無双する女子高生の――」
祥子 「いやそれ絶対売れないから」
倫 「となるとやっぱりソシャゲかな」
陽菜 「あたしは普通に倫のモデル姿見てみたいんだけど」
頬に朱が差している陽菜。 すっかりさっきの倫に夢見心地な様子。
祥子 「ほら、そんなトコにいないで聖夜子もこっちおいでよ」
玄関まで戻り祥子が近寄ると、聖夜子がその耳にささやく。
聖夜子 「今日は倫さんの誕生日なんですから、二人っきりにしてあげないと、ですよ?」
祥子 「わかってるって」
祥子 「ごめん倫、ちょっと用事思い出したから帰るね。
いやぁ力になれず残念だな~」
倫 「別にいいですよ、ハナっから期待してませんし」
聖夜子と目が合い、倫が声を掛ける。
倫 「どうしたの、みこやん? そんな人はほっといてこっちに来なよ」
陽菜 「そうだよ聖夜子ちゃん、聖夜子ちゃんの分のケーキもあるよ?」
聖夜子 「ありがとうございます。
でもわたしは祥子さんと約束していたことがあるので~」
二人に手を振る聖夜子。
祥子 「お姉さん達はすることがあるから!」
陽菜 「そういうことは大きな声で言うな!」
聖夜子 「ふふっ」
ガチャッ!
祥子 「じゃあまたね倫、ソシャゲに出るなら大破した時のイラストは任せてよね!」
倫 「誰が任せるかっ! それに船になる気はないですよ!」
陽菜 「“たいは”ってなに?」
バタン!
ドアが閉まる。
倫 「はぁ……あの人が来るとなんかすっごい疲れるわ」
ため息まじりに呟く倫。
陽菜 「わかる。でもせっかくの誕生日なんだから気を取りなおしてこうよ」
念の為にと玄関に鍵をかける陽菜。
陽菜 「それで結局倫が欲しいものってなんなの?」
倫は深く息をつき頭をガリガリとかくと、視線を逸らしながら口に出す。
倫 「……ちょっと目つむってて」
陽菜 「どうして?」
首を傾げる陽菜。
倫 「いいから、首輪してる時は黙ってわたしの言うことを聞く!」
陽菜 「これってチョーカーなんでしょ? でもわかった」
陽菜が目を閉じる。 倫はポケットの中から先ほどのリボンを取り出すと
それを陽菜の髪に結う。
陽菜 「なにしたの?」
倫 「あっ、そうか。 もう開けていいから」
陽菜は目を開くと、鏡の前で自分の髪を確認する。
陽菜 「リボン……?」
陽菜の両肩に手を置きながら、鏡越しに視線を絡ませる。
倫 「わたしが欲しいのは、これ」
倫 「あんたは全部わたしのもの、だから……」
陽菜 「あたしが全部倫のもの……」
言葉の意味を理解すると嬉しさが込み上げ、
陽菜 「倫、好き好き大好きーー!!」
倫の頬をペロペロと舐める。 すごい勢いでしっぽを振ってるのが見える。
そうしてしばらくペットモードに入った陽菜の自由にさせた後で、
倫 「陽菜、ステイ!!」
倫が指示を出す。
舐めるのをやめ、倫の言葉を待つ陽菜。
倫 「それだけじゃお嫁さんの方は務まらないよ、陽菜」
陽菜 「あっ……」
しまった……という様子で落ち込む陽菜。
倫 「だからこっちに、ね」
ウインクしながら人指し指で自分の唇に触れる倫。
陽菜 「わかった!!」
一瞬で表情をぱあっと輝かせる陽菜。
陽菜 「ちゅっ……」
倫 「んっ……」
ついばむようなキスを繰り返すと、どちらともなく抱き合う二人。
陽菜 「ねえ倫、これからもあたしに色々教えてね」
倫 「わたしの調教は厳しいぞ~覚悟しておけよ~」
倫の胸に顔をうずめる陽菜。 そんな陽菜の頭をなでる倫。
陽菜 「あたしがんばるよ! 倫とずっと一緒にいたいから!!」
陽菜の花嫁修業(調教?)が始まろうとしていた。
……to be continued.
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